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2007-08-29 21:03
連載投稿(3)「金融協力」「投資協力」各作業部会の印象
廣野良吉
成蹊大学名誉教授
つぎに各作業部会の報告書および総会での報告についての印象を述べたい。
まず「東アジア金融協力」作業部会については、総会での議論でも指摘されていたように、この地域の研究機関やアジア開発銀行が多くの調査研究を既にしており、それらを参考にすれば、現行のアジア債券市場、アジア通貨単位、その他多国間金融協力枠組みの分析に基づいた、より有効な具体的な金融協力のあり方について提言できたであろう。特に気になるのは、欧米諸国の財政・貿易収支の恒常的な赤字による世界的な過剰流動性の悪影響について警告していること自身は納得できるが、この作業部会の報告書が特定国の政策に配慮しているために、過剰流動性の主要な原因の一つが、アジア諸国の輸出主導的な高成長政策に基づく外国為替市場への不適切な介入による米ドル、ユーロ高であり、それがさらに欧米諸国の貿易・経常収支の赤字をもたらしているという悪循環の断ち切り方についての分析や提言がないことである。さらに、特定国の長年の超低金利政策がもたらしている株式不動産バブルや高リスク金融商品への投資とそれを仲介するヘッジファンドの急速な拡大がもたらす世界的な金融不安についての分析とそれに基づく政策提言がないことも気になる。これは、NEATがその課題分析、政策提言において、短期的には経済成長を優先している特定政府に不評だが、中長期的には国際金融市場の安定化に繫がる、政治的に独立した研究者としての成果をどの程度公表できるかどうかにもかかる、NEATのあり方にとって重要な課題である。
「東アジア投資協力」作業部会についても、既に多くの現状分析や提言が発表されており、この地域の投資活動の主軸が既に多国籍企業による直接投資、一部ポートフォリオ証券投資にあること、政府の役割はかかる民間投資活動を円滑にするための国内条件の整備と二国間・多国間投資協力協定の締結・強化にあることは自明である。しかし本作業部会の報告書で気になるのは、一部途上国への民間投資を阻害している条件について、先進諸国をはじめとする投資国政府の政策や東アジア地域における多国間投資協力の枠組みの欠如に求めていることである。特に、同報告書が推奨する政府主導による多国間工業投資については、1970-80年代の政府主導によるアセアン工業投資プロジェクト構想の失敗から学ぶことが重要であり、政治的不安定、マクロ政策・外国投資受け入れ政策の不安定、国内労働市場の硬直性等が一部途上国に相変わらず現存していることを重視し、その改善のための二国間・多国間協力を充実することではないだろうか。(つづく)
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