ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2021-05-11 07:51
(連載2)信用と信頼を損ねた「WHO報告書」と問題点
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
以上の通り、14ヵ国が厳しい内容の共同声明を発出したが、それではWHO報告書がここまで批判される原因はどこに求められるであろうか。本来、2020年5月18日、19日に開催されたWHO年次総会で現地調査を要求する決議が採択され、中国での調査の実施が決まった。ところが、2021年1月と2月に武漢市で行われた調査はWHOと中国との共同調査という形がとられた。中国側からの協力がなければWHOの現地調査が進捗しなかったとは言え、共同調査という形は踏襲されるべきでなかった。これが躓きの始まりであった。共同調査の専門家はWHO調査団が17名、中国調査団が17名から編成された。調査内容、調査日程などを決めるうえでも中国側に主導権が握られた。その結果、実際の調査において中国側の都合でWHO調査団は大幅な制限を受けざるをえなくなった。
しかもWHO報告書がWHO調査団と中国調査団による共同執筆という形になった。この結果、以下に論じるとおり、調査結果が少なからず偏向することになった。報告書が共同執筆になったことは習近平氏の意向を忖度してきたと批判されてきたテドロス氏の意向が働いたのではないであろうか。この結果、同報告書はウイルスの発生源はどこかという最重要点を少なからず歪ませることにつながった。しかも同報告書には誠に不適切な記述もみられた。既述のとおり、新型コロナウイルスが何と、中国に輸入された輸入冷凍食品に付着して持ち込まれた可能性があると言及した。この種の主張は以前から中国の専門家達が事あるたびに持ち出した主張である。奇想天外な仮説をWHO報告書が取り入れ、上記の通り、テドロス氏がその可能性を言及したことは同報告書の信用と信頼を著しく毀損することになった。中国側の主張にWHOとテドロス氏が一枚加わったとみられても仕方がないであろう。
他方、WHO報告書は中国科学院武漢ウイルス研究所から何らかの原因でウイルスが流出した可能性は極めて低いと指摘した。習近平指導部がこの可能性だけは意地でも認めたくないのは当然であり、同報告書がこうした言及を行ったのはそうした同指導部の意向を尊重した結果であったと言えよう。それにしてもWHO報告書がこうした記述を行ったことは国連の専門機関としてのWHOの信頼が疑われると言っても過言ではない。新型コロナウイルスの感染者は2019年12月に武漢市で初めて確認される以前に、拡散していた可能性が高いことは明らかであろう。テドロス氏もこの可能性を認めた。WHOが追加の血液サンプルの提供を中国当局に要請したが、果たして習近平指導部はこの要望に応じるであろうか。習近平指導部はこれまでの疑惑を払拭すべく追加的な血液サンプルや検体などの生データをWHOに速やかに提供する必要があるだろう。そうでないかぎり、中国への疑惑はいつまで経っても払拭されないであろう。加えて、武漢市での独立したWHOの再調査が必要であることが多方面から指摘されている。テドロス氏も今後の調査の再開について言及しているが、テドロス氏が今後のWHO調査に向けて中国側を説得できるであろうか。
いずれにしても、この種のWHO報告書が刊行されたことはWHOの信用が厳しく問われかねない。今も世界各地で猛威を振っているウイルスの発生源に関するWHO報告書に世界各国がはたして納得するかどうかWHOは真摯に考える必要があろう。WHOは習近平指導部に追加のデータや検体の提出を求めるだけでなく、独自調査を行い自らの機関の信頼の回復に努める必要があろう。それでなくとも、ウイルスの感染拡大当初から習近平氏に阿るかのようなテドロス氏の姿勢に批判がしばしば向けられてきただけに、そうした批判を払拭し信頼を回復するために何が必要か真摯にWHOとテドロス氏は考えるべきでる。この間、トランプ政権で米疾病対策センター(CDC)所長であったレッドフィールド氏は2021年3月26日にCNNインタビューの中で重大な問題提起を行った。新型コロナウイルスの発生源は武漢市の中国科学院武漢ウイルス研究所である可能性が高いと考える同氏は、「研究所だ。そこから流出した」と断言した。さらに同氏は感染拡大が始まった時期について、「武漢市で2019年9月、10月頃に感染が拡大し始めた」と述べたのである。(おわり)
<
1
2
>
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
(連載1)信用と信頼を損ねた「WHO報告書」と問題点
斎藤 直樹 2021-05-10 07:47
(連載2)信用と信頼を損ねた「WHO報告書」と問題点
斎藤 直樹 2021-05-11 07:51
一覧へ戻る
総論稿数:4661本
東アジア共同体評議会