WHOは2021年1月と2月に武漢市で実施した現地調査に関するWHO報告書(“WHO-convened Global Study of Origins of SARS-CoV-2: China Part,” (Joint WHO-China Study14 January-10 February 2021) Joint Report.)を2021年3月30日に公表した。全体で120頁もあるWHO報告書であるが、その結論は極めて簡素であった。それによると、「共同国際チームは感染を引き起こした4つの主要なシナリオを検討し議論した」とし、以下の4つの可能性を指摘したにとどまった。
・動物からヒトへの直接感染、
・中間宿主を介したヒトへの感染、
・輸入冷凍食品を通じた感染、
・中国科学院武漢ウイルス研究所の実験室での事故による感染。
同報告書はまもなく日米を含む14ヵ国による共同声明という形で痛烈な批判に曝されることになった一方、テドロスWHO事務局長は同報告書をあくまで擁護した。本稿はテドロス氏による釈明に触れ、同報告書を厳しく批判する共同声明の議論を紹介すると共に、その上で報告書のどこに問題があったのかについて論じてみたい。
テドロス氏も新型コロナウイルスの感染拡大は2019年12月以前に始まったことを認めた。テドロス氏によると、「・・WHO報告書は2019年12月、あるいはおそらくそれ以前にウイルスがすでに拡散していたことを示唆している。(“WHO Director-General's remarks at the Member State Briefing on the report of the international team studying the origins of SARS-CoV-2,” WHO, (March 30, 2021.))」続いてテドロス氏はWHO調査団が中国側から十分な生データの提出を受けていないことを踏まえ、その提供を要望した。同氏によると、「・・WHO調査団は生データに十分にアクセスできなかったと表明した。今後の共同研究ではより適宜で包括的なデータが共有されることを期待する。」これに関連しテドロス氏は婉曲的な表現で中国側にサンプル・データの提供を求めた。同氏曰く、「・・最も初期の症例を把握するために科学者達は少なくとも2019年9月以降の生物学的サンプルを含むデータの十分な提供を得るだろう。」このように、テドロス氏は中国側が追加の血液サンプルや検体の提供をWHO調査団に十分に提供したとは言えない趣旨のことを述べ、サンプルの提供を求めた。
これに対し、まもなく日米を含む14ヵ国はWHO報告書を厳しく批判する内容の共同声明を発出した。(“Joint Statement on the WHO-Convened COVID-19 Origins Study,” US State Department, (March 30, 2021.))共同声明の表現は一見穏やかでオブラートに包まれた感があるが、その指摘には誠に厳しいものがあった。共同声明は武漢市でのWHOの現地調査が透明性と独立性を欠如したと指摘し、中国側による干渉を受け調査が十分に行われなかったことを暗に批判した。共同声明によると、「新型コロナウイルスの発生源について我々は干渉や過度の影響のない、透明性と独立性を備えた分析と評価を支持する。この点で、我々は中国での最近のWHO調査に対し共通の懸念を表明する。」続いて共同声明は追加の血液のデータや検体の提供を中国側が拒んだ結果、WHO調査団が十分な調査を行うに至らなかったと論じた。共同声明によると、「ウイルスの発生源に関する国際的な専門家による研究が大幅に遅れ、完全な元データとサンプルの提供を受けていないことへ共通の懸念を表明する。」今後、中国側からの干渉を受けない形でWHOが独立した追加調査を行う必要があると共同声明は強調した。共同声明によると、「我々は、・・専門家主導の第2段階調査の実施を推奨する。」(つづく)