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2020-11-19 07:58
(連載2)パンデミックを引き起こした中国の初動対応の瑕疵
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
この間の1月6日から10日まで武漢市の人民代表大会ならびに政治協商会議が開催された。同会議において患者数に変化が見られないことが確認された。これに続いて、11日から17日まで湖北省の人民代表大会ならびに政治協商会議が開催された。同じく、患者数の増加は報告されなかった一方、「ヒトからヒトへの感染の明確な証拠はまだなく、可能性は排除できないもののそのリスクは比較的低い」と言及された。実に意味の分かりにくい表現であるが、「ヒト‐ヒト感染」が起きている可能性があることを婉曲に物語った。しかしこの間の1月14日に中国国家衛生健康委員会において馬暁偉(マ・シャオウェイ)主任はSARS以来の「最も深刻な危機」であると警告していたことが後に明らかになる。馬暁偉氏の発言は新型コロナウイルスの脅威を真剣に認識していたことを物語った。ところが後述するとおり、1月20日まで習近平氏は沈黙を保ったままであった。1月20日に事態は急変する。中国国家衛生健康委員会の専門家グループ委員長に就任した鐘南山(チョン・ナンシャン)氏は1月20日に国営中央テレビの会見で、「現在、ヒト‐ヒト感染の現象が起きていると言える」と発表し、事態が切迫していることを公にした。「ヒト-ヒト感染」が起きていると中国を代表する感染症の専門家が警鐘を鳴らしたことにより、「ヒト‐ヒト感染」を習近平指導部も認めざるをえなくなった。
他方、これに慌てたWHOは1月20日と21日に武漢市で現地調査を実施すべく代表団を派遣した。しかしWHOは人から人への感染が起きている証拠があるものの、一層の精査が必要であるとお茶を濁した。1月20日に習近平氏もついに重い腰を上げた。同日、習近平氏は新型コロナウイルスへの感染拡大を阻止すべく全力を挙げる旨の「重要指示」を出したことを21日に『人民日報』が伝えた。この「重要指示」から伝わってくるのは同ウイルスの感染拡大についての危機感であるが、問題は中国国内での人の移動はともかく国外への人の移動について習近平氏が何ら言及しなかったことである。習近平指導部は1月23日に武漢市を封鎖したが、武漢市封鎖の前に500万人もの人々が武漢市を脱出していたことを武漢市市長が明らかにした。もしこれが真実であるとすれば、すでに手遅れであった。23日の武漢市封鎖は明らかに遅すぎたと言わざるを得ない。
加えて、習近平指導部は1月24日から始まる「春節」での旅行者の海外渡航にこれといった制限を加えなかった。この国外への膨大な数に上る人の移動が遠からず世界をパンデミックに陥れる爆発的感染拡大を招くことになる。わが国で武漢市と何らかのかかわりを持つ感染者が確認されたのは1月の下旬から2月の上旬であった。1月26日に中国疾病予防管理センターは華南水産卸売市場で585個のサンプルが採取され、そのうち、33個のサンプルから同ウイルスの遺伝子が検出されたと公表した。続いて27日に同センターは「2019年新型コロナウイルスの感染状況とリスク評価」と銘打った報告書を公表した。それによると、新型コロナウイルスは野生動物に由来すると考えられるとした。感染経路については、2019年12月初めに同市場において野生動物からウイルスが漏洩し、それが市場を汚染し、続いて人に感染し、最終的に人から人への感染を起こしたのではないかと推論したのである。
上記の観察から明らかになるのは、習近平指導部が武漢市を発生源とする新型コロナウイルスの感染の初期段階においてこれと言った対策を何ら講ずることなく、同ウイルスの世界大の拡散を許してしまったという事実である。1月20日に習近平氏は「重要指示」を発出したが、1月7日に開催された中国共産党政治局常務委員会議で同氏はすでにウイルスの存在を認識していた。同指導部は1月23日に武漢市の封鎖により事態を収拾しようとしたが、感染が蔓延していた武漢市から500万人もの人々が脱出していたことはすでに時機を逸していたことを物語る。さらに習近平氏は1月24日に始まる「春節」での膨大な数の旅行者の海外渡航に結局、制限を加えなかった。これにより、世界各地にウイルスが拡散することはほとんど不可避となってしまった。こうした事態を引き起こした初動対応の瑕疵の責任は誠に重いと言わざるを得ない。米国が新型コロナウイルスの感染拡大による甚大な災禍に直面する中で、5月6日にトランプ大統領が「発生源で止めることができなかったのか。中国で止めることができなかったのか。発生源で止めることができたはずである。しかしそうはならなかった」と嘆いた。この発言は発生源で食い止められることができたはずなのに、何故、このようなことになったのかという、やり場のない怒りをぶつけた発言であった。以上の経緯を踏まえると、トランプ氏の発言を待つまでもなくウイルスの感染拡大は中国国内で封じ込めることができたと推察されよう。ところが、中国国内で感染拡大を封じ込めるどころか国外に拡散させてしまった。その責任は改めて重いと言わざるを得ない。同ウイルスの感染症が収束した少数の国を除けば、わが国を含め世界中の多数の国が今もこの感染症に苦しめられていることは否定できない事実である。(おわり)
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斎藤 直樹 2020-11-18 23:37
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斎藤 直樹 2020-11-19 07:58
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