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2020-10-18 10:01
(連載1)トランプの再選はあるのか
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
2020年11月3日の米大統領選挙が近づいてきた。米国でも日本でもメディアではトランプ候補の劣勢ばかりが伝えられるきらいがあるが、現実はどうなのか疑問にならざるをえない。確かに10月2日に新型コロナウイルスに感染し入院した当初、トランプ大統領の再選はないと誰もが感じことは事実であろう。74歳と言うトランプの年齢などを踏まえれば、これで大統領選は終わったと思わざるをえなかった。しかし類まれな頑健な体の持ち主なのであろうか。医師団に投与された薬がよほど効いたのであろうか。「強制退院」と揶揄されることがあったが、4日間で退院し、選挙運動を再開するという展開はこれまた誰にとっても想定外であった。ホワイトハウスに戻るや否や、支持者を集めバルコニーから怪気炎をあげると、10月12日にはフロリダでの選挙運動を再開させた。フロリダでの選挙運動を映し出す映像には数日前まで入院中であった多少弱弱しかった面影はない、いつもの元気なトランプであった。
それでは、トランプの再選は実際にあるのか。メディアのほとんどがトランプの劣勢ばかりを伝えている結果、トランプの劣勢が独り歩きしている感があるが、世論調査各社の選挙予想統計を詳細にみてみると、必ずしもそうでないことがわかる。一般投票予想ではトランプ候補がバイデン候補に確かに10%近く離されている。反トランプのメディアの多くはそれ以上離されていることを伝えたがるきらいがある。とは言え、米国大統領は有権者が投票する一般投票の集計だけでは決まらないことは周知のとおりである。大統領選の勝敗を最終的に決するのは各州の人口比に基づき各州に割り当てられた選挙人数である。選挙人の合計はわずか538人であり、その過半数である270人以上を獲得した候補者が当選する仕組みになっている。しかも「勝者総取り方式」と言われるとおり、各州での一般投票において一票でも多く獲得した候補者がその州に割り当てられた選挙人数を文字通り、総どりするため、極端な結果につながりがちである。このため、一般投票で敗れた候補者が選挙人数で逆転勝ちする事例がこれまで幾度となく起きてきた。2000年11月の大統領選挙ではブッシュ候補が一般投票で約50万票もゴア候補に離されていながら、選挙人数で最終的に勝利を収めた。さらに2016年11月の大統領選挙では大どんでん返しが起きた。下馬評でヒラリー・クリントン候補の圧倒的優勢が伝えられていた中で、トランプ候補の勝利を予測したのはほんの一握りの専門家だけであった。実際にヒラリーはトランプに一般投票で300万以上の大差を付けた。ところが、選挙人数で過半数の270人にヒラリーが届くことはなかった。なんと270人に届いたのは圧倒的劣勢が伝えられていたトランプであった。一般投票で300万人以上も多くの票をクリントンが獲得していながら、538人の選挙人数ではトランプが300人以上の選挙人を獲得した。
これは僅差でありながら、いわゆる接戦州(あるいは激戦州)をことごとくトランプ候補が制したからに他ならなかった。実際に勝敗のカギを握った接戦州は中西部の「ラストベルト(rust belt:錆びた地帯)」と揶揄されるペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガンなどであった。これらの州の一般投票でトランプはヒラリーを1%以下の僅差で抑えて、各州に割り当てられた選挙人数を総どりしてしまった。「ラストベルト」と呼ばれる各州は長らく米国の製造業を支えてきたが、グローバル化の波から最も打撃を受けている地域でもある。この結果、「アメリカを再び偉大にする」というシンプルなキャッチ・フレーズの下で失業問題などで苦しむ有権者のハートをトランプは掴んだのである。接戦州を制することしか勝機はないと見たトランプ候補は選挙直前までこれらの州を重点的に回っていた。
あれから4年、何が変わったのか。これらの「ラストベルト」自体に大きな変化があったわけではない。トランプの再選のシナリオを狂わしたのは経済問題ではない。想定外の新型コロナウイルスの爆発的感染拡大がトランプ優位の状況を一変させた。米国の感染者数と死者数は世界でも突出している。米国内でコロナウイルスへのトランプの初動対応が間違っていたと幾度となく指摘されてきた。実際の感染者数と死者数を踏まえた時、確かに反論の余地はトランプに少ないと言わざるを得ない。とは言え、米国内での対応に多くの問題があったにせよ、元々の原因を作ったのはウイルス発生源の中国による国家ぐるみの情報操作、情報統制、隠蔽工作とWHOによる警報の遅れであったと言える。WHOは1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したのに続き、3月11日に「パンデミック」宣言を行ったが、両宣言に対しトランプは俊敏に対応した。1月30日の「緊急事態」宣言に対し、31日にトランプ政権は「公衆衛生緊急事態」宣言を発出し、米市民でない渡航者の米国への入国を一時的に停止する発表を行った。このトランプの決定を批判したのは習近平指導部とテドロスWHO事務局長であった。このとき、テドロスは「海外渡航と貿易を不必要に妨害する措置を講ずる理由はない」と誠に誤った勧告を行った。その結果、膨大な数の中国人旅行者の海外渡航につながった。米国だけでなく各国への爆発的感染はこの「海外渡航」によって引き起こされたものである。(つづく)
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