その後、習近平指導部を震撼させかねない論文が中国内から発せられることになった。同論文は肖波涛(シャオ・ボタオ)教授らが発表した「新型コロナウイルスの可能な発生源」であった。( “The possible origins of 2019-nCoV coronavirus,” Research Gate, (February 6, 2020.))肖波涛はウイルスの発生源と目された華南水産卸売市場ではなく同市場に近接したウイルス研究所の「武漢市疾病予防管理センター(the Wuhan Center for Disease Control Prevention (WHCDC))」からウイルスが流出した可能性を疑った。この研究所の他に同教授らが疑ったのは「中国科学院武漢ウイルス研究所(Wuhan Institute of Virology, Chinese Academy of Sciences)」の可能性であった。2月14日に習近平が「新バイオセキュリティー法」を強化する指示を打ち出したのはこうした背景を踏まえてことであろう。いかなる研究機関も新型コロナウイルスの発生源について研究成果を公表する前に、中国当局による事前の承認を必要とする厳しい制限を習近平は課したのである。言葉を変えると、ウイルスの発生源について公言してはならないとする重大な警告であったと言える。上述の肖波涛らによる問題提起から約一週間後の警告であることを踏まえると、習近平は発生源に関する研究が指導部の知らないところで表出する可能性にいかに神経を尖らせていたかを物語った。