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2020-09-30 00:00
(連載2)コロナ禍での習近平指導部の隠蔽工作とはなにか
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
「春節」の最中の1月28日にテドロス率いるWHOの代表団は急遽、中国を訪問し、習近平と会談した。「春節」の最中での会談であったことは、テドロスとの会談がいかに重要であるか習近平は感じていたであろう。テドロスは「武漢を封鎖したことで危機を避けることができた」と習近平を手放しで称えた。テドロス曰く、「この流行に取り組む中国の真剣さ、とりわけ最高指導部の取組み、ウイルスのデータおよび遺伝子配列の共有を含め、指導部が示した透明性を我々は感謝する。」他方、テドロスは「春節」での旅行者の海外渡航が引き起こすリスクについて一言も言及しなかった。WHOが「緊急事態」を宣言したのは習近平とテドロスの会談から2日後の1月30日であった。その時点では感染者や死亡者は中国に集中していた。これがテドロスとWHOの判断を狂わすことにつながったかもしれない。その際、テドロスは「海外渡航と貿易を不必要に妨害する措置を講ずる理由はない」と誠に誤った勧告を発した。その後に起きる未曽有の感染拡大を踏まえたとき、テドロスの宣言は重大な問題を包摂したことが明らかである。その後の爆発的な感染は上述のとおり、「春節」時の莫大な数に上る中国人旅行者の海外渡航によるところが大である。WHOが1月30日まで「緊急事態」を宣言しなかったことは明らかに時機を逸した感がある。
その後、習近平指導部を震撼させかねない論文が中国内から発せられることになった。同論文は肖波涛(シャオ・ボタオ)教授らが発表した「新型コロナウイルスの可能な発生源」であった。( “The possible origins of 2019-nCoV coronavirus,”
Research Gate,
(February 6, 2020.))肖波涛はウイルスの発生源と目された華南水産卸売市場ではなく同市場に近接したウイルス研究所の「武漢市疾病予防管理センター(the Wuhan Center for Disease Control Prevention (WHCDC))」からウイルスが流出した可能性を疑った。この研究所の他に同教授らが疑ったのは「中国科学院武漢ウイルス研究所(Wuhan Institute of Virology, Chinese Academy of Sciences)」の可能性であった。2月14日に習近平が「新バイオセキュリティー法」を強化する指示を打ち出したのはこうした背景を踏まえてことであろう。いかなる研究機関も新型コロナウイルスの発生源について研究成果を公表する前に、中国当局による事前の承認を必要とする厳しい制限を習近平は課したのである。言葉を変えると、ウイルスの発生源について公言してはならないとする重大な警告であったと言える。上述の肖波涛らによる問題提起から約一週間後の警告であることを踏まえると、習近平は発生源に関する研究が指導部の知らないところで表出する可能性にいかに神経を尖らせていたかを物語った。
その後、3月11日にテドロスが新型コロナウイルスについて「パンデミックとみなせる」と宣言するに至り、全く新たな局面に及んだ。こうした中で米国を激しく挑発する事件が発生した。3月12日に趙立堅(ジャオ・リージエン)中国外務省報道官が同ウイルスは米軍が武漢市に持ち込んだ可能性があるとツイッターに書き込んだ。趙立堅曰く、「米疾病対策センター(CDC)が注目を集めた。米国で感染者0号が出たのはいつか。感染者数は何名か。病院は何という名前か。この感染症は米軍が武漢に持ち込んだものかもしれない。透明性を示せ。データを公開せよ。米国は説明する責任がある。」この書込みは唐突で意味不明の印象を与えるが、趙立堅が言わんとする背景には複雑な経緯があった。趙立堅が問題視したのは、武漢市で2019年10月に開催された「世界軍人陸上競技大会」である。同大会には約170人の米兵が参加したとされるが、この米兵達がウイルスを武漢市に持ち込んだと趙立堅は根拠もなく一方的に決めつけようとしたのである。しかも2020年3月11日に米疾病対策センターのレッドフィールド(Robert Redfield)所長が行った米下院聴聞会での発言が趙立堅に根拠のない憶測を生ませたことになる。レッドフィールドは同日、「インフルエンザ感染者の中に新型コロナウイルスの感染者が混入した事例があったと考えられる」と発言した。これに趙立堅が噛みついて、上記の書込みにつながったと推察される。
これはフェイクニュースを装い、米軍に責任を擦り付けようとした悪質な情報操作であったと言える。中国共産党による一党独裁国家において、政府機関に属する人間が確たる根拠もなく米国政府を激昂させる内容を個人的見解として述べることは考え難い。もしこの人物が個人的見解としてこの種の発言を発信したとすれば、米中関係に重大な打撃を与えたとして叱責を受けることは免れなかったはずである。その後、趙立堅は3月12日の書込みを撤回するという発言を行った。4月7日に趙立堅は「米国の一部政界関係者が中国に汚名を着せようとしたことへの反応であり、中国の多くの人が抱いた義憤を反映したものだ」と発言した。ウイルスの発生源という事実関係が厳しく問われる問題に対し、趙立堅は義憤による書込みであったと居直った。これでは義憤に駆られれば、政府関係者が事実に反する暴言を世界に向け発信してよいものかという疑問を投げかける。この間、感染源が中国とは限らないとする発言が中国当局者から間断なく発信された。これらの事例は新型コロナウイルスの感染確認初期から今日まで、習近平を頂点とする中国共産党が統治する中国が地方当局から中央当局まで、いわば国家ぐるみでウイルスの感染拡大の事実を隠蔽する工作を行ってきたことを物語ると言えよう。(おわり)
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