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2020-08-05 01:09
(連載2)ポンペオ国務長官による米中新冷戦演説
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
この間、2020年1月20日までに人から人へ感染するいわゆる「ヒト‐ヒト感染」が起きていたことは明らかである。同日、国家衛生健康委員会ハイレベル専門家グループ委員長の鐘南山(チョン・ナンシャン)は、「新型コロナウイルス肺炎は確実に人から人に感染している」と発表した。にもかかわらず、何故か、習近平は1月24日から始まる「春節」での膨大な数に上る中国人旅行者の海外渡航を制限しなかった。(「コロナ危機における習近平の隠蔽責任とトランプ(1)(2)」『百家争鳴』(2020年5月25、26日)参照。)これによってウイルスが世界に拡散したことは一目瞭然である。「春節」時にわが国を訪れた中国人旅行者数は90万以上に及ぶとされる。しかもこともあろうに、WHOの責任者のテドロス事務局長は習近平を称賛し続けた。「春節」を前にして膨大な数に上る中国旅行者の海外渡航を認めることは渡航先にウイルス感染を一気に拡散させるリスクがあると、テドロスはWHOの責任者として習近平に警告すべきであった。そうすれば、現在も各国で猛威を振るっている「パンデミック」は回避できたかもしれない。にもかかわらず、そうはしなかった。テドロスが行ったことは1月23日に習近平が武漢市を封鎖したとして手放しで称賛したことである。テドロスの言動は明らかに常軌を逸していた。今日の「パンデミック」を引き起こした張本人は習近平であるとしても、WHOの責任者のテドロスがこれに加担したことになる。新型コロナウイルスの感染は習近平やテドロスの対応いかんでは発生源の武漢市で封じ込めることができた可能性があったと推察されるのである。
1949年の中華人民共和国の建国から百周年を迎える2049年までに世界大国を実現すべく国家戦略を邁進させているが、習近平という人物が「中華民族の偉大なる復興」を掲げ「中国の夢」を無我夢中に追い求めることは実に危険なことである。今、世界で生起していることはこの結果であると言っても過言ではない。国連海洋法条約に反し南シナ海のほぼ全域に領有を中国は主張してきたが、これを看過できないとフィリピンが常設仲裁裁判所に訴え、2016年7月に同裁判所が中国の主張に法的根拠がないと裁定を下すと、裁定を平然と無視した。また南シナ海の中央部に位置する南沙諸島の幾つもの環礁を実効支配し、環礁をコンクリートで埋め立て「人工島」に造り替え、軍事基地を建設している。こうした行為の一つ一つが国際法違反に該当する。しかも1997年に香港が中国へ返還された後、50年間は香港の高度な自治を保証する内容の「英中共同宣言」を1984年に結びながら、まだ23年間しか経ていない今、その自治を公然とはく奪するような香港国家安全維持法を制定し、直ちに施行に移す。英国との間で結んだ合意への露骨な侵犯であることをなんとも思わない。
さらに中国内の新疆ウイグル自治区やチベット自治区では自治権を声高らかに主張するものを容赦なく強制収容所へ送り込む。しかも台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権を独立勢力と決めつけ、軍事侵攻も辞さずと軍事圧力をかける。相手国に対しては国際法違反を公然と行い、自国内で企てている人権侵害を外部世界から批判されると、内政干渉として猛然と反駁する。1949年の中華人民共和国の建国から何も変わっていないところである。米国による関与によって中国共産党は変わりうるとした仮説が誤っているとポンペオが指摘したとおりである。ポンペオは「我々は中国を他の国のように普通の国として扱うことはできない」とし、中国に対する関与政策からの決別を宣言した。先端IT技術について、これまで中国共産党は実に巧妙に自由主義世界に入り込み機密や技術を盗み出してきた。米国はこれまで余りにも無防備すぎた。これが今日の問題を生起させていると、ポンペオは力説した。ポンペオによれば、「我々は中国共産党が背後にいる企業とのビジネスが、例えばカナダの企業のものと違うことも知っている。・・我々はファーウェイを無垢な通信機器企業として扱わない。安全保障への真の脅威として相応の対応をとっている。」続いて、ポンペオはその実態に踏み込む。ポンペオ曰く、「・・我々は中国からの学生や会社員がすべてただの学生や会社員ではないことを知っている。その多くが知的財産を盗み、中国に持ち帰るために来ている」。
ポンペオは今、自由主義諸国が行動を起こさなければ手遅れになると警鐘を鳴らす。米国は様々な分野ですでに行動を起こしていると強調し、米国が行っていることから始めようと、ポンペオは自由主義諸国に連携を呼び掛けた。こうした中で、わが国も重大な岐路に立たされようとしている。米国と中国が激しく対立する中で日本が両者の調整役を果たすべきではないかといった主旨の発言がわが国の一部にみられる。これは生起している現実に誠に疎いか、習近平指導部の片棒を担いでいるのではないかと疑わざるを得ない。2020年4月からわが国の固有の領土である尖閣諸島周辺海域に中国公船が侵入して以降、今日まで連日、侵入が続いている。この結果、尖閣諸島の主権が今まさに侵されそうになっているときに、習近平をいまだに国賓として招くことを云々している声を聞く。国賓としての訪日を習近平が希望するのであれば、一刻も早く尖閣諸島周辺海域への中国公船の侵入を止めるべきでないのか。今、尖閣諸島の防衛を含む南西諸島の防衛が現実の課題として表出している。わが国は傍観者ではありえない。次の標的となっていることに気づかなければならない。(おわり)
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