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2020-04-03 09:11
(連載2)新型コロナウイルス発生源を巡るミステリー
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
これに対し、米軍に責任を擦り付けようとしたことに激昂する形で、トランプ政権は猛反駁に転じた。新型コロナウイルスによる感染が米国で急拡大する状況の下で、トランプ大統領は3月13日に「国家非常事態」を宣言すると共に、記者会見において前日の12日に趙立堅によるツイッターへの書き込みをやり玉に挙げた。また同日、スティルウェル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は崔天凱(ツイ・ティエンカイ)中国駐米大使を国務省に呼び、厳しく叱りつけたのである。トランプが怒りを一気に爆発させると、事態の深刻さに気づいた習近平国家主席は「病原がどこから来て、どこに向かったのか明らかにしなければいけない」という趣旨の論文を3月16日発行の中国共産党理論誌「求是」に寄稿した。習近平はAIやビッグデータを駆使し徹底的に発生源を突き止めようと呼びかけた。習近平の狙いは中国が必ずしもウイルスの発生源ではないと装ったものであったが、習近平が発生源をごまかそうと目論んでいるとトランプに映ったことは明白であった。
これに対し、3月16日にトランプは米国産業が「中国ウイルスのあおりを特に食っている」とツィッターに書き込んだ。続いて、トランプは17日の記者会見において、「ウイルスは中国から来たのだから[中国ウイルスは]まったく正しい呼称だと思う・・中国が『ウイルスは米軍が持ち込んだ』と偽情報を流すから来た場所の名前で呼ぶべきだと言った。」これに対し、前述の耿爽は「ウィルスと中国を関連づけることに断固反対する」と反対に声を荒げた。また3月18日に前述の鍾南山は記者会見で発生源を改めて曖昧にする発言を行った。鍾南山曰く、「このウイルスは中国で感染が広がったが、発生源が武漢であるという証拠はない。科学と政治の問題は分けて考えるべきである。」これに対し、トランプは19日の記者会見で「われわれが新型コロナについて知っていれば、あるいは彼らが知っていれば、まさに発生源の中国で食い止められていたはずだ・・しかし今となっては世界のほとんどが、この恐ろしいウイルスを押しつけられている」とし、新型コロナウイルスの感染が世界に拡大した責任は中国にあると断言した。そうすると、20日、耿爽は記者会見の席上、「遺憾な事に中国が稼いだ貴重な時間を米国は浪費した。米国の何人かは中国の感染防止の取り組みに汚名を着せて責任を押しつけようとしている」とまたしても反駁した。
これに激昂したトランプは20日に記者会見で、新型コロナウイルスを改めて「中国ウイルス」であると断言すると、ポンペオも「中国ウイルス」であると力説した。この間の19日に菅義偉官房長官は記者会見において「政府としては従前から『新型コロナウイルス感染症』と呼称している。・・感染症が中国で発生したことは明らかだと認識しているが、呼称をめぐるやり取りについてコメントする立場ではない・・」という日本政府の立場を明らかにした。またこの間、米国内では中国当局に対し損害賠償を要求する意見も出ている。ホーリー上院議員(共和党)は「中国共産党が世界各国にウイルスを蔓延させた経緯について、国際調査が必要である。共産党は自らが解き放ったパニックで被害を受けた他国に対し、賠償しなければいけない」とツイッターに書き込んだ。他方、バーマン・ロー・グループ米法律事務所などは習近平指導部に対し集団訴訟に打って出る構えを示している。同指導部に対し数十億ドルの損害賠償を突き付けるべきであり、もし賠償を拒否するならば、米国内の中国の保有資産を凍結すべきであると呼びかけたのである。
同問題は近年、米中新冷戦の勃発の様相を見せている米中関係の今後に決定的な打撃を与えかねない。中華人民共和国の建国百周年にあたる2049年までに世界大国の実現に向けて習近平指導部は猛進している感がある。加盟諸国のインフラ整備という名目で潤沢な資金を多数国にばら撒きながら展開している一帯一路構想に始まり、強引な南シナ海への進出、とりわけ南沙諸島の「軍事拠点化」やわが国の安全保障を脅かしかねない東シナ海への進出、中距離核ミサイルの急速な軍拡、さらに「一国二制度」を掲げる香港の自治を形骸化しようとする動きなど、近年様々な問題が噴出している感がある。そうした世界大国の実現に向けた中国の動きをトランプ政権はこれ以上看過できないと捉えている。米中貿易摩擦問題はこうした文脈から発生しているとも理解できよう。そこにもってきて、米国は武漢市を発生源とする新型コロナウイルスの感染の猛威に曝されている。4月2日の段階で米国内の感染者数は20万9071人、死者数は4633人に及んでいる。さらに同ウイルスは米軍が持ち込んだものではないかと、米国に言いがかりをつけようとしている声が中国の一部から聞こえてくる。こうした中国の姿勢にトランプ政権だけにとどまらずに米国民の怒りと憤りが一層高まることは免れそうもない。同ウイルスの収束に向けた国際協調がなによりも重要であるとはいえ、同問題は米中新冷戦の勃発を引き返せないものにすることが危惧されるのである。(おわり)
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(連載1)新型コロナウイルス発生源を巡るミステリー
斎藤 直樹 2020-04-02 23:08
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斎藤 直樹 2020-04-03 09:11
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