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2019-07-09 16:15
対韓輸出規制に至る経緯を検討する
加藤 成一
元弁護士
日本政府は7月4日韓国に対し、高純度フッ化水素など半導体材料3品目を対象にした輸出規制強化措置を発動した。日本企業が韓国に輸出する際の許可手続きを厳格にするほか、韓国を外為法上の優遇制度である「ホワイト国」から除外し、軍事転用が可能な電子部品についての輸出手続きを厳格化する。今回の措置について日本政府は、日韓両国の信頼関係が著しく損なわれたことを理由に挙げている。今回の処置による、サムスン電子など韓国を代表する電子製品メーカーへの影響は少なくないとみられる。日本政府が、韓国に対して敢えてこのような措置を発動した背景には、いわゆる「元徴用工問題」がある。すなわち、韓国大法院(最高裁)によるいわゆる「元徴用工判決」と、それに連なる日韓請求権協定3条に基づいた解決を要請する日本政府を無視する韓国政府の不誠実な対応である。日本政府の行動はそれら対する、事実上の「対抗措置」であると言えよう。
いわゆる「元徴用工判決」は、明白に国際法違反であり、いわゆる「元徴用工」問題が、日韓両国間で完全且つ最終的に解決されたことは、廬武鉉政権をはじめ、歴代韓国政府も明確に認めてきたことである。また、仮に、「元徴用工」個人の慰謝料請求権が日韓請求権協定により当然には消滅しないとしても、「元徴用工判決」後の韓国政府側の対応は全く不当である。その具体的な理由は、2018年11月21日・22日付けe-論壇「百家争鳴」掲載の拙稿「韓国大法院徴用工判決の法的検討」で、すでに明らかにしているので、参照されたい。また、現状では、日韓両国間の信頼関係は著しく損なわれていることに加え、文在寅政権下の韓国を経由して北朝鮮へ電子部品が流出し軍事転用される危険性も否定できず、韓国に対する安全保障上の懸念は払拭されてはいない。よって、今回の日本政府による事実上の「対抗措置」は、国際法上も極めて正当なものであり、何らの瑕疵も存在しないだけでなく、安全保障上も価値のある措置であった。
他方、韓国政府側は、今回の日本政府の措置を国際法に違反する措置であると断じている。その上で、対抗措置として、WTO(世界貿易機関)への提訴などを行う構えだ。だが、本件のような輸出許可手続きの厳格化が、WTO協定であるGATT(関税及び貿易に関する一般協定)11条(関税などによらない輸出入の数量制限の禁止)に違反しないことは明白である。また、GATT21条では、貿易制限は安全保障上の必要があれば例外措置として正当化されることも付記しておく。このように、上記の韓国政府による著しい信頼関係の破壊と上記の安全保障上の事由により、韓国を外為法上の優遇対象から除外することは極めて正当であり、何ら同条に違反しないことも明白である。
また、今回の日本政府による韓国に対する事実上の「対抗措置」は、「元徴用工判決」を起点として次々と繰り出される韓国での不当な振る舞いに対する、日本政府のやむに已まれぬ「緊急措置」である点を踏まえなければならない。というのも、現在「元徴用工判決」原告弁護団は日本企業の債権差し押さえや現金化などに取り組んでおり、また、収拾を図るべき韓国政府は「三権分立」を口実にして事態を徒らに放置しているからだ。これまでに詳説したとおり、「元徴用工」に対する慰謝料を含む賠償金の支払いなどの一切につき、1965年に一切の請求権問題の完全且つ最終的解決を相互に確認した日韓請求権協定を締結し、日本から合計8憶ドルもの莫大な供与を受けた韓国政府の責任において履行されるべきは、国際法上、余りにも明白である。その上で、今回の日本政府の対応はWTO協定をはじめとする国際法にも完全に適合した極めて正当なものである。
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投稿履歴
(連載1)韓国大法院「徴用工判決」の法的検証
加藤 成一 2018-11-21 20:08
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(連載2)韓国大法院「徴用工判決」の法的検証
加藤 成一 2018-11-22 10:26
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対韓輸出規制に至る経緯を検討する
加藤 成一 2019-07-09 16:15
┗
日韓「徴用工問題」の解決試案
加藤 成一 2019-07-18 08:40
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