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2018-11-21 20:08
(連載1)韓国大法院「徴用工判決」の法的検証
加藤 成一
元弁護士
韓国人「元徴用工」4人が新日鉄住金を相手に損害賠償を求めたいわゆる「徴用工訴訟」で、韓国大法院が10月30日に同社の上告を棄却したため、総額4憶ウオン(約4000万円)の賠償を命じる判決が確定した。現在韓国では少なくとも14件以上の「徴用工訴訟」が起こされ、請求額は総額232憶ウオン以上に上り、被告の日本企業は約70社以上で、新日鉄住金をはじめ、三菱重工業、東芝、日産自動車、パナソニック、日本郵船、住友化学、王子製紙など日本を代表する企業が並んでいる。
韓国政府はさらに「強制労働動員企業299社のリスト」を作成している。韓国では22万人規模の「徴用工被害者」がいるとされ、賠償額が一人1000万円とすれば、被告とされた日本企業にとっては総額2兆円以上の天文学的な巨額負担となる。そのほかに、北朝鮮や中国の「徴用工」や「強制労働」等の問題も存在し、今回の韓国大法院判決の影響は誠に甚大であり計り知れない。それだけに、今回の韓国大法院判決の多数意見が認めた「徴用工」個人の慰謝料請求権が、1965年に日韓両国で締結された「日韓請求権協定」に含まれるのかどうか、同協定によって消滅したのかどうか、についての日本政府による総力を挙げた法的検証作業が必要不可欠であり、韓国政府に対する日本政府の一日も早い法的対応が求められるのである。
国際法の一般理論によれば、国家間で締結した請求権放棄の条約や協定によって、当然には相手国や相手国国民に対する自国民個人の権利や請求権が放棄され消滅することはないとされるが、戦後賠償交渉などにおいて、国家間で個人の権利や請求権をも含めて完全且つ最終的に一括して解決する、いわゆる「一括処理協定」は国際慣習法上一般に認められた条約の形式である。その代わり、国家が自国民に対して補償をするのである。そして、日韓両国間で国民個人の権利や請求権を相互に消滅させる「一括処理協定」が成立し有効であるかどうかは、(1)条約や協定の条文の内容と解釈、(2)条約や協定の成立過程における両国の意思と行動、(3)条約や協定成立後の両国の対応等が極めて重要であると解される。本件についてこれを見ると、まず、上記の(1)については、「日韓請求権協定」2条1では、「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、サンフランシスコ平和条約4条aに規定されたものを含めて完全且つ最終的に解決されたことを確認する。」となっており、2条3では、「一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権については、いかなる主張もすることができないものとする。」と規定されている。そして、サンフランシスコ平和条約4条aでは、「日本国およびその国民に対する相手国住民の請求権(債権を含む)の処理は、日本国と相手国との取り決めの主題とする」となっている。
これらの条文を併せて通常の意味に従って読めば、日本国および日本国民に対する韓国国民個人の請求権は、両国の取り決めの主題となり、債権たる慰謝料請求権をも含めて1965年に成立した「日韓請求権協定」によって、上記「一括処理協定」により、完全且つ最終的に解決し消滅した事実が法的に確認されていると解される。なぜなら、以上の条文からは、「徴用工」の慰謝料請求権だけはこれを除外するとの解釈は到底成り立たないからである。上記の解釈は、条約法に関するウイーン条約31条の「条約は通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする」との規定にも適合すると言えよう。したがって、自国民の相手国及び相手国国民に対する請求権等は、相手国に代わってすべて自国政府において補償すべき問題なのである。いわゆる柳井俊二外務省条約局長の「日韓請求権協定で個人請求権は消滅しない」旨の1991年8月27日参議院予算委員会答弁は、日本政府の日本国民に対する補償責任を回避するための答弁であり、「日韓請求権協定」が「一括処理協定」であるとすれば、不適切な答弁と言えよう。このように、「日韓請求権協定」の条文の内容と通常の意味における解釈からすれば、「徴用工」個人の慰謝料請求権が同協定に含まれ、完全且つ最終的に消滅し、解決されたことは明らかである。(つづく)
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