共同声明で特に奇異に映ったのは「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(Complete, Verifiable, and Irreversible Denuclearization, or CVID)」について言及がなかったことである。トランプ政権は核兵器を含めすべての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルを完全に検証可能な形で不可逆的に廃棄させることを金正恩指導部に要求してきた。首脳会談の数日前にはポンペオ国務長官が政権にとって譲れない点としてCVIDを力説していた。そのCVIDはどこに行ってしまったのであろうか。共同声明には、「・・板門店宣言にのっとって、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む」との表現が盛り込まれた。この「完全な非核化」という語句はCVIDからVに当たる「検証可能」とIに当たる「不可逆的」という政権が拘ったはずのキイワードが抜け落ちてしまったことを物語る。このことは「完全な非核化」という語句で妥結したのか、それとも今後CVIDに向けて詰めることを意味するのか釈然としない。