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2018-04-19 00:16
(連載2)南北首脳会談と真価が問われる文在演
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
2018年元旦から突如、平和攻勢に金正恩が転じたとは言え、ほんの少し前まで遮二無二、対米核攻撃能力の獲得に向けて金正恩は猛進していた。ほほ笑み外交よろしく金正恩が外部世界に愛嬌を振りまいているが、これも祖父と父の時代に彼ら「二人の金」が米政権を懐柔するために繰り広げてきた外交の真似事に過ぎない。非核化に向けて金正恩が動き出したのは、対北朝鮮経済制裁に重きを置いた圧力行使が殊の外功を奏し始めたからであろう。対北朝鮮経済制裁網を寸断すべく金正恩は必死である。制裁網が寸断されないためには北朝鮮との経済的なつながりが深い中国と韓国が鍵を握ることは明らかである。文在演がどっちつかずの姿勢を続けることが制裁網の寸断を目論む金正恩に利することになろう。金正恩をして非核化を確実に履行させるためには、文在演はトランプとの共通の姿勢で南北首脳会談に臨む必要があろう。
米朝首脳会談に向けた試金石となるのが、南北首脳会談であることは間違いない。既述の通り、文在演の非核化への考え方が必ずしてもトランプと同一ではないことを念頭に、南北首脳会談の開催までに米韓両国は非核化への取組みについて擦り合わせを行う必要があろう。案じられるのは、文在演が金正恩に阿ってしまい南北首脳会談において文在演が金正恩の考える非核化に理解を示すといった可能性である。その結果、6月上旬までの米朝首脳会で非核化を巡りトランプと金正恩が相対することになりかねない。金正恩による段階的かつ同時並行的な非核化への取組みに習近平が傾き、さらに文在演が理解を示すようではトランプが孤立してしまいかねない。トランプ政権は、改めて「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」を求める立場を文在演政権に向けて言明している。このことは、文在演政権が「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」に消極的な姿勢を示していることに対する警告でもある。
対米核攻撃能力の獲得という金正恩が据えた戦略上の目標に変更はない。金正恩が企てているのは非核化という耳ざわりがよい文言を持ち出しての戦術的な転換に過ぎない。実際に金正恩指導部による対米核攻撃能力への狂奔は今も続いているとみる必要があろう。一年以内に技術的な課題が克服され対米ICBMが完成するというのは大方のミサイル専門家の予想である。その判断の基礎となるのは2017年11月29日未明に強行された「火星15」型ICBM発射実験である。対米ICBMの完成には、「弾頭小型化」技術や「再突入技術」がまだ確立されていないとみられるものの、対米ICBMの完成に向けた前段階にあるとトランプ政権は捉えている。と言うことは、同政権からみて遅くとも一年以内に北朝鮮の非核化が完遂されなければならないことを物語る。そうした認識に立ち、トランプ政権は今後の北朝鮮への対応を決めると考えられる。2003年8月から2008年12月まで断続的に開催された6ヵ国協議の時はいざ知らず、対米ICBMの完成に近づいている現在では状況は大きく異なる。こうした状況の下で、段階的かつ同時並行的な非核化への取組みを行うことになれば、非核化へ向けた作業を北朝鮮が勝手な事由で突然停止したり、米国による見返りが的確に行われていないとして難癖を付け作業を中断するといった事態が頻発することが懸念される。その度に米朝が調整を行い作業を再開するのであれば非核化プロセスはいつ滞ってもおかしくはなく非核化の完遂はいつまで経っても終わらないであろう。
このことは、ブッシュ政権時代に開催された6ヵ国協議において北朝鮮の核施設の無能力化を巡り実際に起きたことである。そうした問題を内包する段階的かつ同時並行的な取組みを支持することは今後長々と続きかねない非核化プロセスを是認することに他ならないであろう。結局、非核化を自ら言い出した金正恩に非核化を完遂させるためにはトランプの言わんとする「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」を金正恩指導部が実行して初めて米国が見返りを提供する取組みが実際的であると考えられる。これと並行して金正恩指導部に対米ICBMの開発のための時間稼ぎをさせてはならない。この間も対米ICBMの開発だけでなく韓国や日本を射程内に捉える弾道ミサイルの開発が続いているとみる必要があろう。非核化への取組みで日米韓の連携が揺らいでしまえば、日米韓の連携の寸断を狙う金正恩の思う壺であろう。文在演の外交の真価が問われようとしているのである。(おわり)
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(連載1)南北首脳会談と真価が問われる文在演
斎藤 直樹 2018-04-18 23:57
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斎藤 直樹 2018-04-19 00:16
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