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2018-01-24 10:10
(連載2)わが国のミサイル防衛の現状と課題を考える
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
イージス艦搭載SM-3とPAC-3などわが国のミサイル防衛システムの配備状況を踏まえると、前述の複数の弾道ミサイルによる連続発射に対する迎撃は十分であるとは言い難い。現在、SM-3を搭載するイージス艦はわずか4隻であり、しかも北朝鮮の弾道ミサイルに対処可能であるのは日本海に展開する2隻に過ぎない。イージス艦一隻につき装備されているSM-3は8基に止まることから、2隻のイージス艦に装備されているSM-3の合計は16基である。飛来する弾道ミサイル1基を迎撃するため2基のSM-3を発射する必要があると仮定すれば、SM-3が迎撃可能な北朝鮮ミサイル数は1隻当たり4基程度であり、2隻では8基と割り出すことができる。SM-3の迎撃能力が極めて高いとしても、8基以上の弾道ミサイルが連続的に発射されれば、SM-3の迎撃網は素通りされる恐れがある。SM-3による迎撃を擦り抜けた北朝鮮ミサイルはPAC-3が確実に迎撃しなければならない。とは言え、現在のPAC-3の展開数は32基に止まる。大気圏内に再突入した弾頭1発を打ち落とするためには少なくとも2基のPAC-3が必要であると考えられる。その結果、迎撃可能な弾頭数は16発程度となる。しかしPAC-3の対応領域は直径50キロ・メートル程度とされる。このような既存の迎撃態勢で大丈夫であろうか。
しかも迎撃を一層困難にするのは北朝鮮が様々な対抗措置を講ずることであり、このことも考慮に入れる必要がある。対抗措置には防衛システムによる迎撃を欺く、例えば、防衛網の潜り抜けを目論む措置や、はたまた迎撃システム自体の破壊を狙う措置なども考えられる。こうした中で最も容易で効果的な対抗措置と考えられるのは核弾頭を偽装したオトリ弾頭を弾道ミサイル上部に搭載し連続的に発射することであると考えられる。そうした場合、迎撃側にとって飛来するミサイルが核弾頭搭載なのか、それともオトリ弾頭搭載であるのか事実上、識別困難となろう。わが国全域を射程内に捉えたノドン・ミサイルを約200基も北朝鮮が保有し、その内、50基相当が移動式発射台に搭載されていると目される。この移動式発射様式のノドンが深刻な問題を突きつけかねない。その内、数発の核弾頭を数基のノドンに搭載すると共に、オトリ弾頭をその他のノドンに搭載し、多数のノドンを複数の拠点に配置された移動式発射台から連続的に発射することが推察される。
例えば、4ヵ所の拠点に移動式発射台搭載ノドンが4基ずつ配備され、ノドンがほぼ同時に連続的に発射されるという状況を想定するとしよう。その内、各拠点に配備された4基のノドンに搭載された弾頭の内、3発がオトリ弾頭であり1発が核弾頭であると想定すれば、オトリ弾頭は12発、核弾頭は4発であると割り出せる。計16基のノドンがほぼ一斉に発射されること想定してみよう。オトリ弾頭と核弾頭を識別することは実際には困難であるため、飛来する総てのノドンに対しミサイル防衛システムは対応せざるをえない。弾頭すべてを迎撃できるのであれば、これにこしたことはないが、数発の弾頭を討ち漏らす可能性が残る。もしもその中に核弾頭が含まれる場合が問題なのである。こうしたことから、金正恩指導部が講ずる可能性がある対抗措置によって防衛システムが欺かれかねないといった事態に的確に対応した上で、飛来するミサイルを確実に迎撃することが要求されるのである。
実際に前述のシミュレーションに従い16基のノドンが飛来する場合には、SM-3の迎撃網が迎撃可能な数は8基に止まることから、8基がそのまま素通りしかねない。PAC-3が迎撃可能な弾頭数は16発であることから、数量的に十分に対応できるはずであるが、PAC-3の対応領域が極めて狭いため、ノドンの目標地点が拡散している場合には対応能力を超える恐れがあろう。こうしたことから十分な迎撃能力を確保するためには、既存のミサイル防衛システムを拡充することが喫緊の課題となっている。この点について、日本政府は2017年12月に陸上配備型イージス・システムであるイージス・アショア2基の導入を決めたところである。また発射される弾道ミサイルの発射とその飛翔についての情報を確実にするためには日米だけでなく日・米・韓の連携を進めることが求められる。さらにミサイル防衛システムで対処困難であると判断されれば、「敵基地攻撃」という別の手段も慎重に検討する必要もあろう。(おわり)
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斎藤 直樹 2018-01-23 23:25
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斎藤 直樹 2018-01-24 10:10
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