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2018-01-23 23:25
(連載1)わが国のミサイル防衛の現状と課題を考える
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
日々深刻化する北朝鮮核・ミサイル危機にあって飛来しかねない北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃することにより国民を保護するミサイル防衛は、最も重要な対抗手段の一つである。2016年8月3日朝に北朝鮮西岸の殷栗(ウンユル)近郊より発射されたノドン・ミサイルと目される弾道ミサイルは秋田県沖の排他的経済水域へ落下した。これを重大視した日本政府は自衛隊が迎撃態勢を講ずる「破壊措置命令」を常時発令することを指示した。これにより、8月8日から常時発令状態に入った。そこに持ってきて同年9月5日の昼頃に北朝鮮西岸の黄州(ファンジュ)近郊よりノドンと目されるミサイル3基が連続的に発射され、3発とも北海道の奥尻島西方沖約200から250キロ・メートルの排他的経済水域のほぼ同じ地点へ落下した。さらに2017年3月6日にはスカッドERと目される弾道ミサイル4基が北朝鮮西岸の東倉里(トンチャンリ)近郊より連続的に発射され、その内3発が秋田県沖の排他的経済水域に落下した。
これらの一連のミサイル発射実験により、わが国が確実に北朝鮮の弾道ミサイルの射程圏内に捉えられているという事実を突き付けられた。ノドンやスカッドERのような弾道ミサイルの開発が確実に前進していることは、「弾頭小型化」や「再突入技術」という呼称される技術革新と相まって、これまでの仮説上の脅威は現実の脅威となっていることを物語る。そうした脅威に対しどのように対処すべきか。その際、ミサイル防衛は最も重要な手段であるとは言え、わが国のミサイル防衛システムは弾道ミサイルを確実に迎撃できるであろうか。わが国のミサイル防衛は弾道ミサイルの飛翔経路のミッドコース(中間)段階でのSM-3イージス艦搭載スタンダート3迎撃ミサイルと同飛翔経路のターミナル(終末)段階でのPAC-3ペイトリオット改善3型迎撃ミサイルの組み合わせからなる二層防衛システムである。
すなわち、わが国に向けて北朝鮮の弾道ミサイルが発射されれば、速やかに地球の低軌道を周回する早期警戒衛星や地上に設置された早期警戒レーダーが弾道ミサイルの発射を探知してその飛翔を捕捉する。北朝鮮ミサイルの飛翔についての情報が日本海に展開するイージス艦に迅速に伝えられる。これを受け、イージス艦は北朝鮮ミサイルを迎撃すべくSM-3を発射する。SM-3はミッドコース段階を飛行している北朝鮮ミサイルに直接衝突することで迎撃を達成する。もし北朝鮮ミサイルがSM-3による迎撃を潜り抜けることがあれば、ミサイルはわが国に目がけて飛行を続ける。北朝鮮ミサイルから切り離された弾頭が大気圏内に再突入する。これに対し、ターミナル段階である地上十数キロ・メートル上空で弾頭に向けて地上に配備されたPAC-3が発射されるPAC-3は目標地点めがけて落ちてくる弾頭に直接衝突し、迎撃する。こうしたことからPAC-3はそれこそ土壇場での迎撃となる。もし土壇場で討ち漏らすことがあれば、地上の目標に着弾することになるため、何としても回避しなければならない。そのためSM-3とPAC-3の両迎撃ミサイルによる迎撃能力が真剣に問われることになるのである。
近年、ミサイル防衛システムの迎撃能力は改善が施されている。米ミサイル防衛局(Missile Defense Agency)は迎撃実験を繰り返し迎撃ミサイルの改善を図ってきた。例えば、SM-3について2002年1月25日から15年12月9日まで40回の迎撃実験が行われ、33回の成功を収めたとされる。迎撃率は82.5%であった。またPAC-3について迎撃実験が35回実施され29回の迎撃に成功を収めた。これにより迎撃率は約83%に達したとされる。近年、迎撃ミサイルの迎撃能力が一段と向上しているとされるが、北朝鮮による弾道ミサイルの攻撃に対しわが国のミサイル防衛システムが実際に対応できるであろうか。わが国領土のほぼ全域を射程内に捉えるノドンや西日本地域を射程内に捉えるスカッドERなどが複数、連続して発射される可能性を念頭に置く必要があろう。既述の通り、2016年9月5日に移動式発射台から連続して発射されたノドン3基の事例や17年3月日に同じく移動式発射台から連続して発射させたスカッドER4基の事例は特に警戒を要する。(つづく)
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