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2014-04-01 15:51

(連載1)世界の「割れ窓」が増えている

高畑 昭男  ジャーナリスト
 1980年代のニューヨーク市は全米有数の犯罪都市と呼ばれ、秩序も市民の心も乱れていた。90年代になって「ゼロ・トレランス」(軽微な犯罪も見逃さない)政策を掲げるジュリアーニ市長の手で見事に治安が回復したという。ジュリアーニ市政のカギは「建物の割れたり壊されたりした窓を放置すれば、人心も荒廃し、やがて全ての窓が壊される」という「割れ窓理論」だった。

 今の世界で起きていることをみると、この裏返しのように思えてならない。昨年秋、オバマ米大統領が「アメリカは世界の警察官ではない」と断言して以降、「警察不在」の不穏な空気がグローバル規模で拡がった。シリア、イラン、ウクライナなどで国際社会の秩序やルールを力で踏みにじる行動がまかり通るようになった。東アジアでは中国による力ずくの海洋権益の拡大が加速した。世界のできごとの全てに米国の責任があるなどとはもちろんいわないが、世界のあちこちで平和と安全の窓が割れ始めているのも厳然たる事実だ。

 冷戦終結後、国際秩序の維持ににらみをきかせてきた米国の威信と指導力がほころび、そこに中国やロシアの指導者たちが目をつけたのは間違いない。象徴的だったのは、ロシアがウクライナ南部クリミアへの軍事介入を手際よく進める中で米欧が手をこまねくばかりでなすすべがなかったことだ。米軍の活用も遅きに失したといわざるを得ない。

 米メディアや専門家の間では「ロシアは決してウクライナに軍事介入しない」などという根拠なき楽観論が多かったことも影響したのだろう。それにしても、オバマ政権が対抗措置としてハナから「軍事的措置は視野に入れない」(米高官)としたのは深刻な誤りだった。衛星情報などをもとに機敏に米軍警戒態勢を発令し、間髪を入れずに地中海艦隊を動かすなどの牽制行動を打ち出していたら、事態の悪化にブレーキをかけることができたかもしれない。(つづく)
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