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2012-08-08 09:44

(連載)ユーゴミサイル輸出と「平和利用」(3)

鈴木 一人  北海道大学大学院法学研究科教授
 むしろ、問題にしたのは別のガイアツである、アメリカからの技術移転であった。その結果、生まれた「宇宙の平和利用原則」決議は、故に、日本の国内から生まれた宇宙の平和利用への歯止めではない。アメリカの技術が移転されるから、それは軍事転用される危険がある、という論理で作られたものである。

 しかし、朝日新聞の解説記事では、突如「だが近年、ロケット以外の軍事転用可能な技術の開発や利用の歯止めを緩和する動きが国内で相次ぐ」と議論を展開し、ユーゴへの技術移転に伴う軍事転用の問題とは関係のない、衛星利用の問題についての議論を始める。

 この点については、既に毎日新聞に寄稿した文章でも書いたし、上述したように「宇宙の平和利用」の考え方は様々である、ということは述べているので、繰り返さない。しかし、ここで問題にしたいのは、せっかく歴史的な史料価値のある記事を書いておきながら、つまらない「ロケット以外」の話に展開し、日本の「宇宙の平和利用原則」が抱える闇に切り込んでいない、という点である。

 「宇宙の平和利用原則」を大事にしたいという気持ちはわかる。しかし、それは、日本人が独自で軍事転用可能な技術を開発したことに目をつぶり、アメリカから技術移転をされることで突如として生み出されたものであること、また、原則として当時の「平和利用」はロケット技術に関する議論であり、衛星の利用については十分な議論がなされないまま、なし崩し的に衛星の利用も禁じてきたことの問題性などを問わずに、ただ「宇宙の平和利用」というきれいな言葉だけを守る意味はない。宇宙の平和利用とはどういうことなのか、平和のために宇宙を利用するということはどういうことなのか、改めて考える時に来ていると思う。(おわり)
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