２００７年１２月公表された外務省の『ＯＤＡ：政府開発援助白書　２００７』によると、２００６年の日本のＯＤＡは１１１億８７０万ドル、米国、英国に次いで世界第３位である。フランス、ドイツ、オランダがその後に並ぶ。わが国は、１９９１年から２０００年まで世界で最大の援助供与国であることを誇ってきたが、２００１年９月１１日の米国への同時多発テロ攻撃を契機に、米国のＯＤＡが飛躍的に増大した。英国、フランス、ドイツ、オランダ等ＥＵ諸国も、米国に追従してそのＯＤＡを急速に拡大した。わが国だけが、国内的要因、主にバブル崩壊に伴う国民経済の低迷と膨大な財政赤字、さらに部分的には国民の間に見られる「ＯＤＡ疲労感」によって、毎年減少の一途を辿った。

　この減少過程におけるわが国のＯＤＡ議論の中心は「量から質へ」の転換であり、１９９０年代中ごろまで３０年間にわたって支配的であった「量的拡大」という主張は影を潜めていった。そこでは、外務省であるか、援助実施機関である国際協力機構（ＪＩＣＡ）、国際協力銀行（ＪＢＩＣ）であるかに関係なく、プロジェクト評価は勿論のこと、部門別評価、国別評価、さらに近年では環境、貧困削減、ジェンダーというような特定政策課題別ＯＤＡ評価も、すべて「質の改善」が基準であり、評価対象の所与の目的に合致したものであるかどうか、が重視されるようになった。正に、所与のＯＤＡ政策の下でのＯＤＡ実施過程・体制・成果についての評価にとどまり、ＯＤＡ政策そのものに対する疑問や評価は殆どなされてこなかった。

　僅かになされたＯＤＡ政策評価も、援助供与国のＯＤＡの対ＧＤＰ比率とか、人口一人当たりのＯＤＡ絶対額とか、ひも付き援助比率とか、贈与比率とか、譲許水準の度合いとか、対最貧国ＯＤＡ比率等、いわゆるＯＥＣＤ/ＤＡＣの合意にどの程度合致しているかどうかにとどまった。いずれの国でも、ＯＤＡは外交政策の一環であり、その有効な一手段として供与されるという国民的合意が出来ているにも拘らず、わが国では、従来何故ほとんどすべての途上国にＯＤＡが供与されてきたのか、ＯＤＡ供与の国別・部門別配分とその変化がわが国の外交政策と果たして整合していたのかどうか、さらに特定途上国へのＯＤＡ供与の絶対額や部門別ないし課題別配分が、わが国の同盟国や友好国の外交政策の方向性や国際社会の合意と合致していたのかどうか等の問いかけは、殆ど皆無であった。ＯＤＡの戦略性についての一般的議論は時々なされてきたが、こうして、外交政策との関係でのＯＤＡ戦略性についての厳密な研究や報告はなかった。この問いかけは、僅かにわが国の外交政策について解説している毎年の『外交青書』に、限定的に触れられているに過ぎなかった。

　このような状況のゆえに、筆者は２００１年に、日本の過去５０年間におけるＯＤＡ政策の変化を吟味し、その成果を総合評価して、一試論を提示した。拙論「わが国ＯＤＡ政策の展開：半世紀の総合評価の一試論」（『都市問題研究』２００１年１０月号）である。しかし、そこでも所与のＯＤＡ理念、目的、政策の変遷と実施過程・体制・成果についての評価と今後の展望・提言が中心であり、わが国がおかれた国際政治・経済・社会環境の中で生まれてきた外交政策の一環としてのＯＤＡ政策に関する評価は十分なされてこなかった。僅かに、外務省の『政府開発援助白書２００４』では、わが国のＯＤＡ実施５０年を振り返り、ようやくＯＤＡ政策評価にも部分的に言及したし、それ以降の『ＯＤＡ白書』では、世界の主要援助国や国際機関のＯＤＡの理念、目標、優先分野の変遷と共に、わが国のＯＤＡ政策の変遷についても言及し始めた。（つづく）