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2022-04-19 21:24
(連載1)ロシア専門家のウクライナ問題予測を振り返る
中村 仁
元全国紙記者
ロシアのウクライナ侵略の残虐ぶりは目を覆うばかりです。首都キーウ近郊で地元住民ら何百人もの遺体がみつかり、地雷を仕掛けられていた遺体もあった。次々に流れてくる映像が示すのは、歯止めがかからず人間とはいえなくなった独裁者の恐ろしさです。プーチン大統領によるウクライナ併合というより、正気を失った独裁者個人の集団虐殺(ジェノサイド)、戦争犯罪という位置づけに変わりました。侵略前にロシアに詳しい専門家が何を言っていたか振り返ってみました。
ロシア問題といえば、ソ連の崩壊(1991)をいち早く予言し、著名になった仏の歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏です。以来、日本でもベストセラーが多く、人口動態などをもとにした長期的分析で有名です。同氏は「問題はEUなのだ/21世紀の新・国家論」(2016、文芸春秋)で「ロシアの関心は領土の拡張にはない。広い国土に対する人口の少なさだ」、「ウクライナ危機を理由とした西側の経済制裁にロシアは耐えられないという声を聞くが皮相な見方だ。ロシア国民は社会の未来に不安を覚えていない。ロシアは安定の極といえる」と。今やロシアは不安定の極です。
さらに「ドイツ中心で動くヨーロッパに嫌気が差した米国がロシアと融和していくというシナリオも考えられる」と。フランス人の同氏は徹底したドイツ嫌いで、それがこうした見方をとる理由の一つです。ロシアのウクライナ侵略、プーチンの集団虐殺に欧米は怒り、米ロ融和はあり得ません。雑誌への寄稿原稿をとりまとめた「老人支配国家・日本の危機」(2021、文芸春秋)では、「感情に囚われすぎると、地政学的真実は見えてこない。資源エネルギーの面でも、安全保障の面でも日露の接近が合理的であるのは、明らかです」と。出版からわずか1年で真逆の結果になり、岸田政権がロシアとの北方領土交渉は「平和条約交渉は困難」と断言しました。
日本人では佐藤優氏(元外務省分析官)が対ロ外交の最前線で活躍した経験を生かし、多彩な執筆活動を続けてきました。「世界史の大転換」(2016、PHP)では、「ロシアは欧州、米国、アジアとは異なる論理と発展法則を持っている」と、ロシアに理解を示しました。「国家の攻防/興亡」(2015、角川)では「安部首相とプーチン大統領の個人的関係が崩れ、日本は北方領土の交渉戦略を全面的に見直さなくなるという見方には組みしない」と。現在の推移は真逆の流れです。安部元首相は、プーチンと2、30回に及んだ首脳会談は何だったのか考えているでしょう。(つづく)
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