この可能性を真っ先に疑ったのはトランプ政権であった。トランプ前大統領は2020年4月中旬に米国家情報長官室(ODNI)に対し発生源に関する調査を指示したことを明らかにした。これを受け、4月30日にODNIは、「情報機関は感染した動物との接触により感染が始まったか、あるいは武漢市の実験室での事故の結果によるものであったかどうかについて判断するためウイルスの発生に関する情報を引き続き厳格な精査を続ける」とする暫定的な報告を行った。この報告は研究所を発生源と睨んでいたトランプ氏にとってみれば、中途半端で納得できるものではなかった。この結果、「研究施設の事故説」は一旦宙に浮く形となった。その後、2021年1月から2月にかけてWHO調査団が中国調査団と共同調査という形で武漢市で実施した現地調査に基づく「WHO報告書(“WHO-convened Global Study of Origins of SARS-CoV-2: China Part,” (Joint WHO-China Study14 January-10 February 2021) Joint Report.)」が3月30日に公刊された。「WHO報告書」は発生源について以下の4つの可能性に言及した。(1)動物からヒトへの直接感染、(2)中間宿主を介したヒトへの感染、(3)輸入冷凍食品を通じた感染、(4)中国科学院武漢ウイルス研究所の実験室での事故による感染。
この中で、同報告書は実験室での事故による感染の可能性は極めて低いと考えられる一方、輸入冷凍食品を通じた感染はありうると論じた。これに対し、即日、日米を始めとする14ヵ国は同報告書を猛烈に批判する内容の共同声明(“Joint Statement on the WHO-convened COVID-19 origins study,” US State Department, (March 30, 2021.))を発表した経緯がある。この結果、「研究施設の事故説」の可能性は拭い去れないとの疑念を生むことになった。しかもここにきてそうした疑念をさらに深めかねない情報が流布された。それによると、武漢市でウイルスの感染拡大が始まったとされた2019年12月直前の11月に問題の研究所の3名の職員が緊急入院したという情報を米情報当局が掴んだとされる。これが「研究施設の事故説」の可能性に拍車をかけることになったことは言うまでもない。この情報機関の情報をバイデン氏は殊の外重視した。