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2021-05-19 14:05
(連載1)米国の尖閣と台湾防衛の本気度
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
4月16日に急遽開催された日米首脳会談は今後の日米関係だけでなく米中関係や日中関係を占う上で重大な意味を持つと言える。トランプ政権が習近平指導部のこれまでの力による現状変更を目論む膨張的かつ覇権主義的な動きに対し、もはや看過できないとして猛然と反転攻勢に打って出た結果、米中対立は2020年夏頃から米中新冷戦が勃発した様相を呈し出した感があった。こうした習近平指導部に対しバイデン新政権がどのように向き合うかについては必ずしも明らかでなかった。と言うのは、そもそもバイデン氏は親中派とも言えたオバマ大統領の下で副大統領を長年務めた人物である。習近平指導部からすれば、バイデン政権の発足に伴いトランプ政権時に悪化した感がある米中関係は改善に向かうであろうとみる期待が少なからずあったと言える。しかし政権発足直後からバイデン政権の対中路線は事前の予想を超えて、強硬である。その意味で、バイデン政権はトランプ政権の対中強硬路線を事実上、踏襲している印象を与える。
と言うより、対中強硬路線は今や、共和党と民主党という党派の垣根を超えた米政府の基本路線と言うことができよう。習近平指導部の国家戦略の完遂があくまでも世界大国の実現にあり、しかも現在、中国の近隣諸国がコロナ禍の下で四苦八苦しているが、この間隙を縫うかのように世界大国の実現に向けてがむしゃらに突進しているという印象を与えているからに他ならない。習近平指導部が世界大国の実現のためには力による現状の変更を何ら躊躇しないことを米政府は正確に認識していると言える。バイデン政権もトランプ政権同様に、習近平指導部は露骨な力による現状の変更を目論んでおり、これは看過できないと認識を共有していると言える。このことはとりもなおさず、南シナ海ほぼ全域の領有を目論む動き、南沙諸島の「軍事拠点化」に向けた動き、香港の自治の事実上の剥奪、台湾の軍事併合に向けた動き、わが国の尖閣諸島の実効支配に向けた動きや、新疆ウイグル自治区での人権弾圧などである。
こうした習近平指導部の動きが加速する端緒となったのは2020年6月終わりの香港国家安全維持法の制定・施行を通じた香港の自治の事実上の剥奪であった。これを座視できないとしてトランプ政権が猛然と反転攻勢に打って出た結果、米中対立はもはや米中新冷戦の様相を呈し始めたのは既述のとおりである。続いて、2021年2月1日に施行された海警法がわが国を含め中国の近隣諸国を震撼させたといっても過言ではないであろう。海警法は中国の海警局船舶が中国の主権や管轄権を侵犯する他国の船舶に対する武器使用を行うことができることを認めた。ところが、中国の主張するところの主権や管轄権という概念自体が中国にとって一方的に有利に定義されていることを踏まえると、他国船舶に対する武器使用が恣意的に行われてもおかしくない。中国が南シナ海ほぼ全域に領有権を主張していることに照らすと、広大な同海域でフィリピン、ベトナム、マレーシアなど近隣諸国の船舶が中国の管轄権や主権を侵害したとして、いつ何時、武器使用の対象となってもおかしくはない。
このことはわが国にとっても重大な問題を提起する。中国が尖閣諸島の領有権を一方的に主張していることを考慮すると、同海域でわが国の船舶に対し武器使用をいつでも行う用意があるぞと言外に示唆しているようなものである。2020年4月以降、尖閣諸島の領海の外側の接続水域に中国海警局船舶がそれこそ連日のように、侵入するだけでなく、領海内にも頻繁に侵入し、さらに領海内で操業しているわが国の漁船を海警局船舶が追い回すという事件が度々起きてきた。しかも2021年2月1日の海警法の施行に期を合わせるかのように、尖閣諸島周辺海域での海警局船舶の動きが日増しに過激かつ横暴となっている。これに対し、菅内閣の閣僚がそうした中国の動きに対し国際法違反で遺憾であると、お決まりの弱腰の対応を繰り返してきたことは周知のとおりである。他方、習近平指導部の膨張的かつ覇権主義的な動きに控えめな対応をとってきたわが国の主要メディアもここにきて習近平指導部の動きを批判し始めたが、こうしたことはなかったことである。加えて、香港の自治の剥奪以降、習近平指導部は将来の台湾の軍事併合を視野に捉えて、軍事圧力を連日のように加えている感がある。これに対し、台湾の蔡英文政権は猛反発していることから、台湾海峡の緊張は高まっているのが現実である。今回の日米首脳会談で発出された日米共同声明である「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」は、日増しに露骨になっている習近平指導部に対し今後、日米が共同でいかに臨むかに関し共通認識を明確に表したと言える。共同声明は共通の懸念事項として多くの課題を取り上げているが、その主要課題は尖閣諸島と台湾の防衛であると言える。(つづく)
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