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2021-03-18 09:14
(連載2)海警法と尖閣諸島実効支配の危機
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
これに対し、3月1日に加藤官房長官が海警局船舶による尖閣諸島領海への侵入は国際法違反であると非難した。しかし国際法を遵守する意思と意図があるとは到底思われない習近平指導部に対し、国際法違反であると政府の閣僚が非難したところで果たして効果はあるであろうか。閣僚がこの種の発言を繰り返しているようでは、習近平指導部による尖閣諸島の実効支配に向けた動きを止めることができないばかりか、実効支配に向けた動きを逆に加速させることになるのではないか。この間も、煮え切らない日本政府の対応を横目で見ながら、習近平指導部が虎視眈々と隙をうかがっていることに注視しなければならない。3月8日には栗戦書・全国人民代表大会常務委員長が活動報告を行い、この中で、海警法の目的は「習近平強軍思想を貫徹し、新時代の国防と軍隊建設の必要に応えるため」であると力説した。このことは、いかに習近平体制が海警局船舶による武器使用を認めた海警法を重要視しているかを如実に物語る。
これまで日本政府は中国との対立を回避するため意識的に尖閣諸島の実効支配に乗り出すことを極力自重してきた。そうしたわが国の受け身の対応を踏まえ、日本側は何もできないであろうと、習近平指導部は高を括っているのではないか。とりわけ危惧されるのは尖閣諸島領海に大量の中国漁船や海警局船舶が押し寄せ、挙句の果てに上陸されるという事態であろう。一度、尖閣諸島への上陸を中国に許すことがあれば、現状を回復することは至難とならざるをえない。もしわが国が現状を回復しようとすれば、日中間での武力衝突は避けられなくなるとみる必要があろう。したがって、もし大量の中国漁船や海警局船舶が尖閣諸島領海に侵入すれば、誤解のない断固たる対応をわが国が講ずることが求められよう。中国に不法上陸を許すことを阻止するためには、尖閣諸島に日本側が上陸し中国側による不法上陸に備えるという態勢を講じる必要があるのではなかろうか。今、わが国は尖閣諸島を断固防衛する意思と意図があるかどうか試されていると言える。
上述のとおり、これまで尖閣諸島領海内でわが国の漁船が海警局船舶に追い回されるといった事件が発生した際、海上保安庁の巡視船がその度に出動し事なきを得たが今後その保証はない。巡視船と海警局の大型船舶では装備面で大きな差があるところにもってきて、海警法の施行により武器使用も許可された。しかも「第二海軍」と称される海警局と中国人民解放軍海軍が一層連携して行動するとみなさざるをえない。海警局船舶が尖閣諸島領海に侵入する際、背後に中国海軍のミサイル艇が控えていることが伝えられている。尖閣諸島を断固守り抜こうとすれば、最終的には在日米軍による支援が必要となるであろう。とは言え、米国政府にお願いすれば、尖閣諸島の実効支配は防げるといった安易な姿勢では、習近平指導部にわが国の島嶼防衛の足元をみられていると言わざるをえない。尖閣諸島を防衛するのはわが国であり、米国はあくまで防衛支援に駆け付けるという理解でなければならない。米国政府による支援に依存するのではなく、自国の安全保障は自国の手で確保しようとしなければならない。尖閣諸島領海で日本の漁船や海上保安庁の巡視船が海警局船舶から体当たりや発砲を受けるといった事態が現実化しかねない下で、自衛隊の出動も視野に入れざるを得ない。これに対処可能なように自衛隊の行動を明記した法整備も必要となろう。
その上で必要となるのが在日米軍による支援である。わが国の防衛態勢は隙だらけであると習近平指導部がみている一方、在日米軍による支援をことさら嫌っている節がある。その意味で、尖閣諸島の防衛に向けた自衛隊と在日米軍の協力が鍵となると考えられる。とりわけ2020年8月に東シナ海で実施されたような日米合同軍事演習を近接海域で定期的に実施することが同指導部への牽制になるのではなかろうか。いずれにしても、海上保安庁、自衛隊、必要に応じ在日米軍からなる幾重にも重なった防衛態勢を周到に準備しておかなければならない。時間の猶予はない。(おわり)
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(連載1)海警法と尖閣諸島実効支配の危機
斎藤 直樹 2021-03-17 11:10
(連載2)海警法と尖閣諸島実効支配の危機
斎藤 直樹 2021-03-18 09:14
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