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2020-07-22 08:56
(連載2)習近平の目論見と反転攻勢に出るトランプ
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
また同日、「香港自治法案」にトランプが署名したことにより、「香港自治法」が成立する運びとなった。同法には香港の自治の侵害に関わったとされる人物に対する制裁が盛り込まれた。これにより、制裁対象人物と繋がりをもつ金融機関も二次制裁の対象となる。トランプ曰く、「法律は香港の自由を消し去ることに関与する者に責任を負わせるための強力な手段を政府に与えるものだ。」これに対し、15日に「米国は中国の内政へのあらゆる干渉を停止すべきだ」とし、「中国は自国の正当な利益を守るため、米国の関係者や組織に制裁を実施する」と、中国外務省は猛反駁した。これまで中国が南シナ海のほぼ全域を覆う形の「九段線」を引き、その内側に入る広大な海域に対し領有権があると主張してきたは周知のとおりである。これに対しフィリピンはそうした横暴な主張は認められないとして常設仲裁裁判所に提訴したことを受け、2016年7月12日に同裁判所は綿密な審査の上、南シナ海のほぼ全域に対する中国の領有権の主張には法的根拠がないとする裁定を行った。同裁定を全く意に返さない姿勢を習近平指導部は続けているが、2020年7月13日にポンペオ米国務長官は仲裁裁判所の裁定について、「最終的かつ当事国を法的に拘束するものだ」とし、中国の主張に全く根拠はないと一蹴した。
中国の領有権の主張を明確に否定したポンペオの発言は特筆すべきである。と言うのは、これまで米政府は南シナ海における南沙諸島での中国による「軍事拠点化」の動きに対抗して、「航行の自由作戦」と称して米海軍艦艇を同海域にしばしば派遣してきたものの、南シナ海の領有権について表立って公式見解を示してこなかった。しかし今回、南沙諸島の中で中国が実効支配を進めるミスチーフ礁やセカンド・トーマス礁などはフィリピンの領有下にあるとポンペオは言及した。同様に、中国による南沙諸島の「軍事拠点化」の動きを痛烈にポンペオは批判した。ポンペオ発言に呼応する形で7月14日に南沙諸島で米海軍第7艦隊のミサイル駆逐艦「ラルフ・ジョンソン」が久々の「航行の自由作戦」を実施した。これに対し、趙立堅は14日、「米国は南シナ海で騒ぎを引き起こし、中国と南シナ海の沿岸国を離間させようとしている」とし、「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。香港の自治の事実上のはく奪に続く次の標的として台湾に対し軍事侵攻の可能性を習近平指導部はちらつかせながら軍事圧力を加えている。これと並行して、わが国の尖閣諸島周辺海域に連日、中国公船が侵入している。(「コロナ禍の間隙を突く中国の強引な海洋進出(1)(2)」『百家争鳴』(2020年6月29、30日)参照。)7月14日に公表された日本政府の防衛白書は、尖閣諸島周辺海域での中国の動きについて、「一方的な現状変更の試みを執拗に継続しており、強く懸念される」と重大な危惧を表明し、「このような活動の『常態化』を通じ、警戒感を低減させることを[中国は]企図している」と警鐘を鳴らした。これに対し、お馴染みの趙立堅は間髪を入れずに14日、「中国に対する偏見と虚偽情報に満ちている」と声を荒げた。
習近平指導部による現状変更の目論見とその行状にトランプは反転攻勢に出ようとしている。とは言え、11月3日の大統領選挙においてトランプが再選する見通しは開けるであろうか。現在の劣勢を挽回しトランプが再選することがあれば、上述した横暴かつ露骨な習近平指導部の行状をこのまま座視することはありえず、断固封殺すべく厳しい対抗手段を講ずるであろうと推察される。その意味で、トランプが続投するとすれば、日々危うくなりつつある台湾の防衛や尖閣諸島の防衛に米政府が関与する可能性があるこれに対し、民主党のバイデンが選出される場合、どのようにバイデンが対応するか解釈の分かれるところであろう。習近平とトランプの対峙という次元だけでなく、中国の露骨かつ横暴な行状に対し米国が党派の垣根を越えて憤りと不満をあらわにしていると捉えるならば、世界大国の実現を目論む中国とこれを断固阻止しようとする米国の対峙という、二大国の構造的な対峙として捉えることが可能である。そのように捉えるならば、バイデンが選出されるとしても、トランプによる対中封じ込め政策を踏襲するかもしれない。
他方、習近平の行状を多少ならずとも黙認する姿勢へとバイデンが転じるのではないかともみれる。もしそうであるとすれば、習近平にとって好都合な状況が生まれることは間違いないであろう。この結果、勢いづいた習近平指導部は南シナ海ほぼ全域への領有権を一層露骨に主張し、南沙諸島の「軍事拠点化」を完遂させるべくさらに邁進するであろう。また香港の次の標的として、台湾への軍事侵攻を企てる機会をうかがうのではなかろうか。加えて、尖閣諸島の実効支配に打って出ることが危惧される。これと並行して、習近平指導部からみれば圧倒的な差を付けられている核戦力において米国に少しでも追いつくべく歯止めのかからない核軍拡を企てることが予想される。さらに「一帯一路」構想が親中国の巨大な経済圏の建設だけにとどまらず中国の覇権下に置かれた親中国の巨大な勢力圏へといずれ変貌するのではないかと推察される。そうした青写真こそ、「中華民族の偉大なる復興」を掲げ「中国の夢」の実現を目論む習近平の目指すところなのであろうか。もしそうであるとすれば、習近平の目論見は21世紀における「中華帝国」の実現なのかもしれない。このように見れば、新型コロナウイルスの感染拡大は世界大国の実現に向けて習近平が思い描いてきたタイムスケジュールを一気に短縮させたと言えるのではなかろうか。そうした事態に対しわが国はどのように向き合うべきか、真剣に考えなければならない。(おわり)
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(連載1)習近平の目論見と反転攻勢に出るトランプ
斎藤 直樹 2020-07-21 23:52
(連載2)習近平の目論見と反転攻勢に出るトランプ
斎藤 直樹 2020-07-22 08:56
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