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2020-07-13 23:39
(連載1)世界大国を目論む中国の核軍拡への猛進
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
1949年の中華人民共和国の建国から百周年を迎える2049年までの世界大国の実現を掲げる中国の国家戦略の柱の一つは核軍拡であると言える。実際、近年、中国の核軍拡は猛烈な速度で進んでいると言える。まず指摘されるべきは国際条約に対する中国の軽視の姿勢である。こうした姿勢は核拡散防止条約(「核兵器の不拡散に関する条約」=NPT)に対しても表れている。中国は米国、ロシア、イギリス、フランスと共にNPTの下で核保有を認められた、いわゆる「核兵器国」であると位置づけられている。とは言え、「核兵器国」はNPTの下で義務や責任を何も負わないわけではない。実際にNPT第6条は「核兵器国」が「・・核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と定めた。第6条に明示されている通り、「核兵器国」は核軍縮交渉を誠実に実施しなければならない。他方、核保有が禁止された「非核兵器国」が非核であることを立証するためにIAEAと保障措置協定を結びIAEAによる核査察を受けることが義務付けられている。これを受け、わが国をはじめとする「非核兵器国」は核査察を受け、非核であることを立証している。
それでは、「核兵器国」は実際に真摯に核軍縮交渉を実施しているであろうか。2018年8月の時点で、米国の核弾頭数は6450発、ロシアは6850発、イギリスは215発、フランスは300発、中国は280発とされる。米露はこれまで有り余る核弾頭の削減に緩慢ながらSTART諸条約を通じ取り組んできたが、それでもその上限は依然としてかなり高い。他方、イギリス、フランス、中国はこれまで実効的な軍備管理交渉に取り組んできたとは言えない。しかも中国の核弾頭数は近年、漸次拡大する傾向にある。冷戦時代の末期に二大軍事超大国であった米ソ間で緊張緩和が進むのと並行する形で、軍備管理の分野において特記すべき進展がみられた。その代表的な軍備管理交渉が500から5500キロ・メートルの射程距離の中距離核戦力の交渉であった。1981年に始まった同交渉は当初、難航を重ねたが、80年代後半に同交渉は実を結び始めた。この背景には80年代後半に至り進んだ米ソ間の緊張緩和があったことは周知のとおりである。この結果、87年11月に上記の射程距離の地上発射弾道ミサイルおよび地上発射巡航ミサイルの配備だけでなく生産、実験、保有を禁止したINF(中距離核戦力)全廃条約が締結されるに至った。同条約は米ソ両国が保有した中距離核戦力を文字通り、全廃する内容であった。91年12月のソ連解体に伴い同条約はロシアに継承された。
INF全廃条約は冷戦時代の軍備管理を代表する画期的な成果と言えたが、少なからずの問題を引き起こしかねない制約を抱えていた。その最大の事由の一つは同条約が米ソあるいは米露の二国間条約であったことに求められよう。言葉を変えると、同条約はこれらの締約国以外の国の中距離核戦力にいかなる縛りをかけるものではなかった。このことは同条約の締約国でなかった中国をして中距離核戦力の開発・配備に向かわせるまたとない機会を与えたのである。実際に、これをよいことに中国は中距離核戦力の開発・配備に向け猛進した。中国が現在保有するとされる中距離核戦力は約500から1150基程度のミサイルと、約280発程度に及ぶ核弾頭からなる。その結果、中国の地上発射弾道ミサイルの内、9割以上がINF全廃条約の禁止した中距離核戦力であるとされる。こうした射程距離を誇る中国の中距離核戦力がハワイ諸島以西のアジア・太平洋地域の大部分の国々に与える脅威は甚大であることは言うまでもない。同戦力の大量配備を背景に、南シナ海ほぼ全域に領有権を主張している一方、わが国の南西諸島を始めとする東シナ海を中国は威嚇していると言っても過言ではないであろう。
中国が中距離核戦力の配備を重視してきた事由には、上述の地域の諸国を威嚇するだけでなく、中国領土の近接海域を航行する米海軍の空母打撃群を叩く狙いがある。中国から見れば、中国の近海を航行する米空母打撃群は誠に目障りな存在である。射程距離約1500キロ・メートルと目される東風-21(DF-21)は米空母を撃破する能力があるとされることから、「空母キラー」の異名をとる。これに対し、射程距離約4000キロ・メートルに達するとされる東風-26(DF-26)は米領グアム島を確実に射程内に捉える。このことから、同ミサイルは「グアムキラー」とも呼ばれる。グアム島には米国のアジア・太平洋地域の防衛の要衝であるアンダーセン米軍基地がある。また中国の中距離核戦力の増強に目を奪われがちになるが、この間、金正恩指導部が核ミサイル開発に狂奔してきたことは周知のとおりである。日本領土を射程内に捉えかねない中距離核戦力の実戦配備を同指導部は進めてきた。その代表格が日本領土ほぼ全域を射程内に捉える射程距離約1300キロ・メートルのノドン・ミサイルである。INF全廃条約は中国だけでなく北朝鮮の中距離核戦力の配備も禁じることができなかった。またこの間、INF全廃条約の締約国であるはずのロシアも間隙を縫うように、地上発射中距離弾道ミサイルの開発を続けていた。同ミサイルはヨーロッパのNATO諸国に少なからずの脅威を加えることになった。(つづく)
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