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2020-06-30 06:26
(連載2)コロナ禍の間隙を突く中国の強引な海洋進出
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
これに対し、日本政府の対応は鈍いと言わざるを得ない。5月8日に起きた尖閣諸島領海内への中国公船による侵入問題から一ヵ月以上経った6月12日に至り、ようやく茂木外相は同侵入問題に触れた。茂木氏によると、「中国は一つずつステップを踏んで現状を変更し、新たな事実を作っている段階にある。」中国は「『サラミ戦略』を取っている」とし、「しっかり対応することが必要だ。」外相の発言は明らかに遅きに逸した感がある。しかもその後も、尖閣諸島の周辺海域への中国公船の侵入は続いているが、政府がこれといった対応を講じていないのはどういうわけか。もしこうした状況を放置していたならば、尖閣諸島を力ずくで実効支配しようと中国が目論むことが考えられないわけではない。こうした状況の下で、離島防衛が喫緊の課題として浮上している。コロナ禍での露骨な中国の海洋活動の背景には「カールビンソン」、「セオドア・ルーズベルト」、「ニミッツ」、「ロナルド・レーガン」など米海軍の大型空母が軒並みウイルス感染者を抱え、身動きできない状況に陥っていたことがある。その後、これら大型空母が任務に復帰しつつあるとはいえ、中国の海洋活動にこれといった歯止めがかかる気配が感じられない。
5月28日に全人代で採択された香港国家安全法が正式に制定されれば、高度な自治を謳い文句としてきた香港の自治は事実上、骨抜きとなることは間違いない。続いて、習近平指導部の矛先は同指導部から見て分離主義的志向が強いとされる台湾へと向くことは明らかである。実際に香港国家安全法の採択に並行して、台湾に対する強硬対応、とりわけ武力侵攻の可能性について中国当局者達はちらつかせている。(「香港国家安全法の衝撃とその影響(1)(2)」『百家争鳴』(2020年6月22,23日)参照。)その次に狙われかねないのが尖閣諸島であろう。そうしたことが現実になることがあれば、それ以上のことが起こりうることが危惧される。石垣島、宮古島、沖縄本島、奄美大島などを含む南西諸島の防衛といった問題も俎上に載る時が来たと言えよう。これまで議題として真剣に取り上げられていなかったことがコロナ禍の中で実際に起こりつつある。新型コロナウイルスの発生から今日に至るコロナ禍の中で、米中間の激しい対立は米中新冷戦の勃発の様相を呈していると言える。こうした下でわが国はどのようにこれに対応すべきか真剣に問われていると言える。習近平指導部の実に無責任かつ横暴な振る舞いを踏まえ、わが国は重要な教訓を学んだと言える。一つは生産拠点を中国国外に移転させることを早急に進める必要である。二つ目は海上輸送の安全航行を確保する必要である。三つ目は尖閣諸島を含むわが国の南西諸島の防衛を真剣に検討しなければならないことである。
新型コロナウイルスの発生源については様々な推測や憶測が飛び交っているが、湖北省の武漢市であることは間違いない。しかも武漢市の華南水産卸売り市場が発生源であろうとされているが、限りなく怪しいと疑われるのは同市場と近接している「武漢市疾病予防管理センター(the Wuhan Center for Disease Control Prevention (WHCDC)」と、「中国科学院武漢病毒研究所(uhan Institute of Virology, Chinese Academy of Sciences)」など、武漢市にある二つのウイルス関連研究所である。(「新型コロナウイルス発生源を巡るミステリー(1)(2)」『百家争鳴』(2020年4月2、3日)。「ウイルス発生源を巡り深まる謎(1)(2)」『百家争鳴』(2020年5月18、19日)参照。)これらの研究所からウイルスが流出したことを裏付ける決定的な証拠が提示されていないとは言え、これらの研究所と武漢市での同ウイルスの発生と何らの関連があることは間違いないであろう。今回の未曾有というべき感染症の拡大を受け、中国からのわが国への物流は一時期、遮断されることになった。また2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の発生源も中国であったことを踏まえると、いつ何時、新型コロナウイルスのような感染症が発生するとも限らない。今回のコロナ禍を通じ痛切に知らされたのは習近平指導部のガバナンスの不透明性とその権威主義的かつ覇権主義的な性格である。
感染症による物流の遮断だけでなく政治的な事由で物流が遮断されることが十分にありうることを学んだ。こうした点を踏まえると、これまでどおり単に安価な労働力を基礎としたコストパフォーマンスといった観点から、生産拠点を中国内に置くという安直な姿勢を改め、日本国内に復帰させたり中国国外に移転させることを真剣に検討する必要があろう。第二にコロナ禍の中で南シナ海や東シナ海での中国の海洋活動が露骨になっていることは極めて憂慮すべきである。莫大な量の物資を輸送する貨物船や石油タンカーが南シナ海や東シナ海を経てわが国に入港するという現実を踏まえると、その海上輸送路が中国によって脅かされつつあると言えよう。海上輸送の安全確保のためにはそうした脅威を断ち切る必要があり、そのための対策を早急に模索しなければならない。第三に上記した点に関連するが、尖閣諸島をはじめとする南西諸島の防衛に向けた対策を真剣に準備する必要がある。そのためには離島防衛のための安全保障努力を最優先すると共に、日米安保条約に基づき日米間の安全保障努力を一層強化する必要がある。こうした努力と並行して、米国、日本、オーストラリア、インドなどを含めた多国間での安全保障協力を推進する必要があると言えよう。(おわり)
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斎藤 直樹 2020-06-29 23:12
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