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2020-05-26 09:41
(連載2)コロナ危機における習近平の隠蔽責任とトランプ
斎藤 直樹
山梨県立大学名誉教授
もし習近平指導部が新型コロナウイルスの爆発な感染が起こる危険性があるとして「春節」での旅行を制限したり禁止することがあれば、状況は大きく変わっていたであろうと推察される。しかし習近平指導部はそれをしなかった。中国国民が何よりも心待ちにしていた「春節」での旅行を中止させるという選択肢は実際には習近平になかったのであろう。もしも習近平が中止することがあれば、中国の人々の不満は巨大な怒りとなり間違いなく習近平に向かっていたであろう。そうすれば、習近平が拠り所とする権力基盤さえ根底から揺らぎかねなかった。そうした中で、自分に向けられであろう非難があまりにも大きく、あえてそうしなかったのではなかろうか。全世界に新型コロナウイルスを拡散させることになることを習近平はどこまで認識していたであろうか。習近平指導部が「春節」での旅行制限に向けて何の手を打たなかった結果、膨大な数に及ぶ中国旅行者が世界各地に旅立った。わが国にも90万以上の旅行者が訪れることになったが、これがわが国での新型コロナウイルスの感染につながったのは記憶に新しいことである。
「春節」の最中の1月28日にテドロスは急遽、中国を訪問し、習近平と会談した。「春節」の最中での会談であったことは、テドロスとの会談がいかに重要であるか習近平は感じていたであろう。習近平の胸中を十分に察していたであろうと思われるテドロスは「武漢を封鎖したことで危機を避けることができた」と習近平を称えた。そのテドロスが「春節」による世界各国への膨大な数に上るヒトの移動を放置することがどれだけ感染のリスクを拡大させるか知らなかったはずはない。しかしテドロスは「春節」でのヒトの移動のリスクについて一言も言及しなかった。明らかにテドロスはWHOの最高責任者としてあるまじき言動をとっていたことを物語る。WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に及んだと宣言したのは1月30日であった。それまでに感染者数は中国だけでなく世界各地で確実に増えだしていた。ところが、この期に及んでもテドロスは「不必要に人やモノの移動を制限する理由はない」と言い張っていたのである。WHOによる「緊急事態」宣言を受け、1月31日にトランプ大統領は直ちに中国全土への渡航を禁止する措置を発令した。これにより、米国への感染拡大を阻止することができたとトランプが考えたかもしれない。しかし想定をはるかに超える形で米国にも感染が忍び寄りだしていた。その後の米国の感染者数および死者数の激増は世界でも突出している。まさかそうした事態に及ぶとは、トランプは想像できなかったであろう。
WHOが1月30日まで「緊急事態」を宣言しなかったことは明らかに時機を逸した感がある。しかも米国が中国への渡航禁止措置を発表すると、WHOから非難を受けたとトランプは後にテドロスを糾弾する。上述のとおり、テドロスは「不必要に人やモノの移動を制限する理由はない」と発言していたことを踏まえてのトランプの糾弾であろう。テドロスのこうした発言は後にトランプの逆鱗に触れることになるのは無理からぬことであろう。トランプが言うとおり、テドロスは「中国寄り」で「全く公平ではなく」、「時間と人命を犠牲にした」のは明らかであった。こうした頃、新型コロナウイルスの発生源について様々な推測や憶測が流れた。こうしたなかで、2月6日に重大な問題提起が華南理工大学の肖波涛(シャオ・ボタオ)教授により行われた。(『百家争鳴』「新型コロナウイルス発生源を巡るミステリー(1)(2)」(2020年4月2、3日)参照。)同教授は発生源と目された水産卸売市場ではなく同市場に近接したウイルス研究所の「武漢市疾病予防管理センター(the Wuhan Center for Disease Control Prevention (WHCDC))」から何らかの事由でウイルスが流出した可能性に言及した。すると、まもなく同論文は削除されると共に、同教授も消息を絶った。このため、かえって同論文の信ぴょう性が高まる結果となった。その後、感染源が中国とは限らないとする見解が中国当局者から続々と発信されることになった。
2月14日に習近平が「新バイオセキュリティー法」を打ち出したのはこうした背景に踏まえてことであろう。新型コロナウイルスの発生源について公言してはならないとする重大な警告であったと言える。この間の2月11日にテドロスが新型コロナウイルスの病名を「Covid-19」とした。その後、テドロスが3月11日に「パンデミックとみなせる」と表明したが、すでに手遅れの感があった。テドロスは習近平のご機嫌をうかがうあまり、対応は明らかに後手、後手に回っていた。感染はその後、世界各地で一気に爆発的に増大することになる。以上にみた時系列な進展で明らかなとおり、最大の問題は「春節」を前に膨大な人口の移動を制限しなかったことが世界大の「パンデミック」を引き起こしたと言わざるを得ない。その後、習近平はWHO総会で中国の立場を示した。中国は未曾有の感染症と戦い、これに勝利を収めたとする一方、同氏の演説からはこうした事態を招いた責任に対する謝罪の一言もなかった。そればかりか中国はこの間も南シナ海や東シナ海での活動を活発化するとともに、全国人民代表大会では「香港での国家安全法制度案」を採択することにより、高度な自治を主張する香港に対する厳しい統制強化を図ろうとしている。今後、世界大国の実現を目論む「中国の夢」に向け習近平指導部は邁進を続けるであろうが、トランプ政権はそうした目論見を封じ込めるべく強硬な対抗措置を講ずると考えられる。米中新冷戦はいよいよ本格化しそうな気配を感じる。(おわり)
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斎藤 直樹 2020-05-25 23:36
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斎藤 直樹 2020-05-26 09:41
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