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2019-07-12 23:56
(連載1)第3回米朝首脳会談と核凍結案の真偽
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
2019年6月30日に南北を分ける軍事境界線上に位置する板門店で第3回米朝首脳会談が急遽、開催されことは驚きを持って迎えられた。トランプ大統領が大阪でのG20への出席中の29日にツイッターで「・・もし金正恩朝鮮労働党委員長がこれを見ているなら、非武装地帯で握手して挨拶するために会うかもしれない」と金正恩に非武装地帯での再会を呼び掛けた。この呼びかけに金正恩が飛びついたことで急遽、会談の運びになったとの印象を世界に与えた。金正恩は米朝首脳会談で「昨日の朝、意向を示されたものを見て驚いた」と語った。ところが、どうやら事前にトランプと金正恩の間で板門店での再会に向けてやり取りがあったことが後日、明らかになった。板門店での首脳会談は数分ではなく1時間近くに及んだ。しかも会談は旧交を温めるといった儀礼的なものではなくハノイでの第2回米朝首脳会談の延長で両首脳が議論を行っていたとされる。
今回の首脳会談に至る背景にはトランプと金正恩の間での親書の交換があった。6月10日に金正恩はトランプへの親書でトランプとの再会を楽しみにしていることを伝えた。これに対し、トランプは金正恩にまもなく親書を返信したが、これを読んだ金正恩は小躍りして喜んだことが伝えられた。その内容が今回実現した非武装地帯での再会であったわけである。ハノイでの第2回米朝首脳会談がどのような経緯で物別れになったかについていくつか見立てがある。トランプは2月28日の首脳会談決裂直後の記者会見において、金正恩が寧辺核施設の廃棄に応じる用意があるがその見返りとして(トランプが言うところの)「経済制裁の全面解除」をトランプに求めたのに対し、トランプは「経済制裁の全面解除」に応じられないとした上で、寧辺核施設の廃棄だけでなく他のウラン濃縮施設の廃棄を要求し、会談は暗礁に乗り上げたとの説明を行った。その数時間後、李容浩(リ・ヨンホ)北朝鮮外相が記者会見を開き、金正恩は「経済制裁の全面解除」ではなく5件の国連安保理事会決議に盛り込まれた経済制裁措置の解除を要求しただけであったと釈明した。
ところが、後日、首脳会談においてトランプは金正恩にボルトン大統領補佐官が作成した強硬な米国案を提示したところ、これに金正恩は顔色を変えて受け入れられないと反発したことで破談となったと伝えられている。こうしたことから、実際に物別れとなったことの詳細は必ずしも明らかではない。ところで、7月6日付の『読売新聞』掲載の「北非核化「寧辺+α」要求」という見出しの記事によると、板門店での第3回米朝首脳会談でトランプがハノイでの首脳会談の議論に立ち返り、寧辺核施設の廃棄に加え他の高濃縮ウラン施設の廃棄を改めて金正恩に要求したが、金正恩は即答を避けたため、折り合いがつかなかったとのことである。いずれにしても今回の米朝首脳会談で近々、米朝実務者交渉が再開されることが決まったことは評価できよう。しかし実務者交渉で金正恩側が寧辺核施設の廃棄に加え他のウラン濃縮施設の廃棄に応じる姿勢を示さなければ、トランプ側も見返りに応じる姿勢は示さないであろうと推測される。とは言え、寧辺核施設の廃棄というのが寧辺にある全施設なのか、一部の施設なのか明らかでない。また寧辺核施設の廃棄に加え他のウラン濃縮施設の廃棄をトランプ側が要求するにしても、ウラン濃縮施設が幾つもあるとされることから、一部のウラン濃縮施設かそれとも総てのウラン濃縮施設の廃棄を求めるかも問題となろう。
他方、トランプ側が「経済制裁の全面解除」に応じられないとすれば、何らかの譲歩を示す必要があろう。もしそうであるとすればそれは何か。この点に関し、第3回米朝首脳会談の直前にソウルで開かれた米韓首脳会談で、文在寅大統領が改めて開城工業団地事業や金剛山観光事業などからなる南北経済協力事業の再開をトランプに求めたところ、トランプは慎重にならなければないとして拒否したことが明るみになった。しかも、トランプが拒否したにもかかわらず、直後の共同記者会見で文在寅は寧辺核施設の廃棄が行われれば南北経済協力事業の再開がありうるような、事実と反するような発言を行ったことも明らかになっている。いずれにしても、今後開催される米朝実務者協議の行方が注目される。(つづく)
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(連載1)第3回米朝首脳会談と核凍結案の真偽
斎藤 直樹 2019-07-12 23:56
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斎藤 直樹 2019-07-13 09:20
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