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2019-02-25 09:08
(連載2)ぶっつけ本番で迎える第2回米朝首脳会談
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
実務者協議における綱引きの中身が外部世界になかなか伝わらない中で、経済制裁の緩和や解除について米国内外で憶測が憶測を呼ぶ事態となっている。これに対し、米議会の有力議員達から南北協力共同事業の再開に向けて猛進しようとする文在演の最近の言動を問題視すると共に、トランプ政権に対しそれに応じるべきではないとする要求が出ている。クルーズ(Rafael Cruz)上院議員(共和党)とメネンデス(Robert Menendez)上院議員(民主党)が文在演に警鐘を鳴らしたのは上記の展開を踏まえてのことであろう。両上院議員は連名で2月11日、文在演を痛烈に批判する内容の書簡をポンペオに送付した。書簡によれば、「・・文在寅大統領は北朝鮮の非核化を目指す米国の取り組みを妨げており、米国の法律に違反している疑いさえある」というものである。このことは文在演の言動が米上院の有力議員からみてもはや看過できない事態を作り出していることを物語る。この書簡の概要は2月15日付の『ワシントン・ポスト紙』に紹介された。
書簡は金正恩が実際に非核化に取り組む前に、文在寅は経済的な利益を金正恩に提供しようとしているとし、そうした文在演の言動を慎しませるようポンペオに強く要求するという断固としたものである。この背景には、文在演が開城工業団地の再開に向け猛進してきたことがある。2018年10月に開城工業団地の再開に向け文在演が動こうとしたところ、トランプから急遽、待ったがかかった。そうなると、イギリスやフランスなど国連安保理事会常任理事国の首脳達に経済制裁の緩和や解除を文在演が訴えたという経緯がある。また安保理事会の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが2018年を通じ同工業団地の南北共同連絡事務所で使用される約338トンもの大量の石油精製品を同理事会に届けることなく韓国が北朝鮮に支給していたことが明るみになった。北朝鮮に対する経済制裁は安保理事会決議ならびに米国法に従い履行されているのに反し、文在寅が一方的に南北協力共同事業の再開に向けて動くことがあれば、制裁を弱体化させるばかりか安保理事会決議や米国法への違反となりかねないと書簡は強調した。加えてこれに関与する韓国企業にセカンダリー・ボイコットとして制裁が課される可能性も出てくることを暗に示唆したと言えよう。
この間、朝鮮労働党の機関紙である『労働新聞』が重大な「非核化決断」を金正恩が下したと伝えた。金正恩の決断を「想像を超えた重大決断」であると称えた2月13日付の同新聞の記事からは「・・前途が遠いからといって座り込むことはできず、試練と難関が立ち塞いでいるからといって背を向けたり後戻りすることはできない道・・」という北朝鮮メディアの典型的な言い回しがみてとれた。この言い回しからは北朝鮮側の余裕が感じられることから、南北協力共同事業の一部再開などなんらかの見返りが見込める目途が立ったことが感じられる。他方、前述の両上院議員の書簡が首脳会談に臨むトランプ政権の姿勢にどのような影響を与えたかは明らかではないが、トランプは2月19日、弾道ミサイル発射実験や核実験が強行されない限り、非核化を「急ぐことはない」とホワイトハウスで記者団に述べた。数日後に迫った首脳会談が一筋縄にはいかないことをあえてメディアに示した格好である。同日、トランプは文在寅と米朝首脳会談に向けた擦り合わせを行うべく電話会談を行った。経済制裁の緩和や解除に向けて是が非でも動きたい文在演にとってトランプとの電話会談は格好の機会となった。特に米上院の有力議員達から名指しで批判される中で、トランプとの電話会談は文在演にとって死活的な重要性を持っていた。米上院議員らの批判など全く意に介すことなく文在演はトランプに対し南北協力共同事業を再開させたいと懇願したとされる。「南北間の鉄道、道路連結から南北協力共同事業まで、トランプ大統領が求めるならその役割を一手に引き受ける覚悟ができている」と文在演はトランプに訴えたのである。これから文在演の必死さが伝わってくる。
金正恩に何としても擦り寄ろうとする文在演に対し韓国内からも批判が起きている。韓国の野党である「正しい未来党」の河泰慶(ハ・テギョン)議員は20日、「文在寅大統領は北朝鮮問題さえ出てくると理性を喪失する傾向があるが、19日にトランプ大統領との電話会談で再び『対北朝鮮理性喪失症候群』が再発した」と皮肉を込めて力説した。河泰慶の発言は韓国内でも文在演の言動を突き放して見ている見解があることを物語った。2月21日に米朝首脳会談に向けてビーガンと金革哲がハノイで首脳会談に向けた実務者協議を行った。とは言え、双方が行っているのは首脳会談で取り上げる議題や合意文書の草案に関するもので実質的な議論がなされているかは不明である。トランプと金正恩の両首脳がハノイで顔を合わせる首脳会談まで数日間しか時間的な猶予がないことを踏まえると、果たして双方がすりあわせを行うことなどできるだろうか、疑問となる。言葉を変えると、前回の首脳会談同様に、何も具体的に決まらないままトランプと金正恩がぶっつけ本番で首脳会談に臨む可能性が高まってきた。(おわり)
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斎藤 直樹 2019-02-24 23:30
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斎藤 直樹 2019-02-25 09:08
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