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2018-10-02 08:42
(連載2)詭弁と危うさに彩られた「平壌共同宣言」
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
前述の通り、米国が相応の措置を取ることを条件にして寧辺の「核施設」の廃棄に応じる用意があることを金正恩が示唆した。米国が取るべき相応の措置について金正恩は言及を避けたが、朝鮮戦争の終戦宣言であろうとみられる。すなわち、金正恩にとって焦眉の課題は寧辺の「核施設」の廃棄と引き換えに終戦宣言を実現し、その流れに乗じて平和協定の締結を目論んでいるのであろう。その調子で、その他の施設の廃棄に合わせ、経済制裁の解除、体制保証、在韓米軍の撤収、米朝国交正常化、膨大な量に及ぶ経済支援などをトランプに要求するといった図式を金正恩が思い描いている節がある。金正恩が喉から手が出るように欲しがっている見返りを米国が次から次へと与えても、金正恩は近隣の韓国と日本を射程に捉えた核ミサイル戦力は最後まで手放さないという強かな展望を描いていると推察される。
そうした金正恩の目論む非核化のやり方に理解を示しているのが文正恩である。南北首脳会談を前にした9月13日に文正恩は「北朝鮮は『未来核』を廃棄して『現在核』まで廃棄する」と発言した。文在演の理解では、上述の核実験場の廃棄とエンジン試験場やミサイル発射台の廃棄により「未来核」が廃棄される一方、米国が相応の措置を取れば寧辺の核施設を廃棄することにより「現在核」も廃棄されることになる。「未来核」は廃棄されたと文在演は評価したが、決して「未来核」は廃棄されたわけではない。5個から9個の核弾頭が2018年1月から製造されたと目される。今も核弾頭の製造が続いていることを踏まえると、「現在核」はおろか「未来核」が製造されていることになる。こうした事実関係を無視したような文正恩の発言は金正恩への阿り以外の何ものでもない。2017年の終りに一触即発の事態に迫った感のあった朝鮮半島の危機を緩和すべく奔走する文在演からは、元の木阿弥になることは勘弁願いたいとの必死さが伝わってくる。こうした文在演の姿勢は康京和(カン・ギョンファ)韓国外相の発言にも看取される。9月21日に非核化は申告→検証→廃棄という通常の手続きとは異なるかもしれないと康京和は言及したが、このことからも文在演政権が金正恩に擦り寄っていることがわかる。
「平壌共同宣言」をトランプが本心でどのように捉えているかは別にして、そうした危うい内容を盛り込んだ「平壌共同宣言」にトランプは一定の評価を与えた。2018年11月の中間選挙を間近に控えたトランプとすれば、再選を果たすためには是が非でも中間選挙に勝利を収めなければならず、非核化への取組みについて金正恩を表向き上は評価せざるをえない。他方、ポンペオなど政権の高官が金正恩に厳しい注文を付けるという摩訶不思議なことになっている。こうした中で米朝高官協議が再開されることがあっても、遠からず行き詰ることが予想される。金正恩がすべての核関連活動の全容を盛り込んだ申告と、申告→検証→廃棄を盛り込んだ工程表の提出に応じない限り、非核化の完遂に向けた道筋は遅々として開けない。9月20日に金正恩が文在演に対し「はやく非核化を行い、経済に集中したい」と述べたというが、これほどの詭弁と強弁はないであろう。早く非核化を終わりたいのであれば、トランプが要求する通り、上記の申告と工程表を提出しなければならない。そうすれば、金正恩の非核化に纏わる嫌疑は多少薄れるだけでなく、工程表に従い非核化は加速的に進むであろう。このことを金正恩が理解していないわけはない。
今後、北朝鮮の非核化が曖昧かつ不透明なまま終わることになれば、核の脅威の下で日々怯えなければならないのは韓国でありわが国であろう。「はやく非核化を行い、経済に集中したい」とする金正恩の言葉を文在演が真摯に信じているのかどうか別にして、仲介外交に尽力する文在演もこのことを知る必要があろう。金正恩にとって格好の標的が韓国であることに変わりはない。1990年代後半に金大中が太陽政策の名の下で北朝鮮に膨大な経済支援を行ったのに続き、2000年代に盧武鉉は平和・繁栄政策の名の下でそれに続いた。しかし韓国が行った莫大な経済支援により北朝鮮国民の生活が決して改善したわけではない。経済支援は回り回って北朝鮮の核・ミサイル開発に投入され、韓国に対する核攻撃能力を獲得したという事態に至っている。このことは金大中や盧武鉉が金体制に施した善意が仇となったことを如実に物語る。散々弄ばれてきた過去の経緯を知りつつ文在演が手を差し伸べようとしているのか、前のめりとなった文在演が金正恩にはぐらかされているのか判断がつかない。厳然とした事実があるにも関わらず、またしても善意の手を文在演が差し伸べるのではその代償は計り知れないものになりかねない。遠くない将来に第二回米朝首脳会談が開催されるであろうとの報道が伝えられる中で、金正恩の目論む非核化のやり方は通用しないことを明確に伝えることこそトランプが果たさなければならない責務であろう。文在演に続いてトランプが金正恩との取引に前のめりにならないようにわが国はその都度、警鐘を鳴らす必要があろう。(おわり)
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(連載1)詭弁と危うさに彩られた「平壌共同宣言」
斎藤 直樹 2018-10-01 22:49
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斎藤 直樹 2018-10-02 08:42
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