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2007-04-07 10:08
連載投稿(1)アジア太平洋FTA対東アジアFTA
山澤 逸平
一橋大学名誉教授
4月18-20日にメルボルンでAPEC研究センターの年次総会が開かれ、冒頭セッションで、表記のタイトルで報告を求められている。筆者の前に米国のバーグステン国際経済研究所長がアジア太平洋FTA(FTAAP)の擁護論をぶち、筆者がそれを東アジアFTAと関連付けるという役割である。アジア太平洋FTAは、昨年11月のAPECハノイ会議でAPECビジネス諮問委員会(ABAC)から提案され、首脳会議で採択されて、研究を進めようということになった。それを受けて今年の豪州APECに向けて盛り上げたいというのが主催者の意図であるらしい。
ABACの提案にはPECCのスタディー・グループの報告(注)が添付された。その中でバーグステン所長が強い促進論を展開したが、他メンバーの慎重論を踏まえて、チャールス・モリソンPECC議長(ハワイのイースト・ウエスト・センター所長)がFTAAPの実現は政治的に困難で、むしろAPECとしては「実現性の高い2007年貿易課題」(Credible 2007 Trade Agenda)に取り組むべきだと取りまとめている。それから6ヶ月が経とうとしている。その間にこの議論をめぐる環境に重要な動きが生じた。私はこれまでFTAAPについてモリソン議長の集約に近い慎重論をとってきたのだが、この動きの中でそれを修正して、APECによるFTAAP研究を、WTOの現DDA交渉が失敗した場合の代替案(Plan B)として、目立つように仕立てる必要を感じている。以下、その論拠を述べたい。
上述の主要な動きとは以下の3つである。まずWTOのDDA交渉の難航である。夏までに大筋合意できる可能性はまだ半々ではないか。それも当初目標に比べれば小さな成果で、多角的貿易体制の弱体化を支えられるプランBを用意する必要が高まった。第2は米国内の動きである。現行の貿易促進権限(TPA)が7月1日で失効するが、民主党優勢下の議会で更新できるか予断を許さない。米国の貿易収支赤字拡大、その原因と見なされる対中国貿易摩擦、国内の保護貿易主義の高まりが高ずれば、米国は内向きになる。一部でささやかれる米国経済のスローダウンはこれに拍車を掛けるであろう。第3は地域主義のいっそうの進展である。顕著な例を挙げれば、年初のEUの27カ国への拡大、1月中旬のセブ会議で明らかにされたASEAN統合と東アジアFTAへの展望、そして4月2日の米韓FTA交渉の妥結である。米韓FTAは現行TPAの失効90日前までに議会提出の期限にぎりぎりに間に合ったので、ファスト・トラックが適用され、承認される可能性が高い。
地域主義化の個々の動きはそれぞれに統合化、自由化の努力が実ったものと評価するが、第一のWTO規制の弱体化の中では、誰もが望まないのに、世界経済が三極ないしはそれ以上にブロック化してしまう恐れが出てきた。それを防ぐにはWTO体制を補完するプランBが必要である。(つづく)
(注)A Joint Study by PECC and ABAC:An APEC Trade Agenda? The Political Economy of a Free Trade Area of the Asia Pacific(http://www.pecc.org/で閲覧可能)
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連載投稿(1)アジア太平洋FTA対東アジアFTA
山澤 逸平 2007-04-07 10:08
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山澤 逸平 2007-04-08 09:47
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