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2018-03-26 21:55
(連載1)米朝首脳会談での金正恩の狙いと落としどころ
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
金正恩朝鮮労働党委員長が示唆したとされる非核化の意思表示が2018年5月までの米朝首脳会談の開催を導く端緒となった。金正恩が非核化に真摯に応じることがあるのであれば、朝鮮半島の平和と安全にとって大きな前進となる。とは言え、その可能性は残念ながら低いのではないかと推察される。これまで「責任ある核保有国」や「核強国」であると常日頃から自負し体制の存立の大前提として核・ミサイル開発に向けて金正恩指導部が狂奔してきたことを踏まえると、ここにきて急遽、非核化に応じる意思を金正恩が表示したことに疑問が湧かざるをえない。しかもトランプ大統領の頭にある北朝鮮の非核化とは「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」を実施に移すということである。そうしたトランプの考える非核化を金正恩が受け入れることがあろうか。米朝首脳会談が実現の運びになったとは言え、双方の立場の間には非核化の捉え方を巡り大きな隔たりがある。それではどのような首脳会談になるであろうか論じてみたい。
数時間程度の米朝首脳会談が今後の朝鮮半島情勢の方向を大きく左右しかねないことを勘案すると、会談において両首脳が繰り広げる議論の中身もさることながら両首脳が会談にどのような姿勢で臨むかも重要となろう。韓国特使との会談を受け5月までの首脳会談の開催をトランプが即断したこと、首脳会談までの準備期間が少ないことに加えティラーソン国務長官を解任し対北朝鮮強硬派として名高いポンペオCIA長官を新国務長官に据えること、また大統領安全保障担当補佐官をマクマスターからこれまた強硬派のボルトンに変更することなどに標される通り、強硬派の人脈がトランプを囲む格好で外交を全面的に取り仕切ること、外交上の成果をあげるというよりも非核化の意思表示を示唆する金正恩の真意を確かめることがトランプの主たる目的であること、首脳会談を前に北朝鮮側との周到な打ち合わせや調整がほとんどないままに金正恩との重大な会談にトランプが臨むことなどを斟酌すると、極めて異例の首脳会談になりかねない。
他方、首脳会談を打診した金正恩にしてもトランプが電撃的に首脳会談を決断したことには多少、戸惑いを感じている可能性がある。首脳会談においてトランプが非核化に向けた金正恩の真意が問いただそうするのに対し、金正恩はどのように出てくるのか不確実かつ不透明である。いかなる形式の首脳会談になるのかも不明確である。トランプを筆頭とする比較的少人数の米国代表団と金正恩を筆頭とする比較的少人数の北朝鮮代表団の会談になるのか、それともトランプと金正恩が事実上、二人で向き合うことになるのか。しかも2011年12月に金正日の後を継いで以降、外国の要人と会談した経験を金正恩はほとんど持たない。そうした金正恩が百戦錬磨の交渉人たるトランプの前で委縮するといった可能性がないわけではない。あるいは北朝鮮では怖いもの知らずの独裁者よろしく金正恩がトランプの前で非礼かつ尊大と受け取られる振る舞いに出る結果、一気に気分をトランプは害することもないわけではない。
他方、米朝首脳会談の開催を懇願してきた金正恩に応じたまでであるとして、金正恩を未熟な「ロケット男」としてトランプが高飛車な態度を取ることもないわけではない。そうなれば、首脳会談の中身に入る前の段階で会談は躓きかねない可能性がある。首脳会談で議論が沸騰するならともかく冒頭で意見が対立し、首脳会談が最悪決裂するといった事態も想定されないわけではない。ところで、金正恩の真意はどの辺にあろうか。首脳会談に臨む両首脳は対極の視点から非核化への取組みを捉えている節がある。金正恩にとって非核化の完遂は米朝首脳会談を皮切りにこれから始まる可能性のある米朝核交渉の最終到達点であり、その前に金正恩体制の保証に始まりありとあらゆる便宜を米国が提供しなければならないと金正恩は目論んでいると考えられる。首脳会談で最初に切り出すのは金正恩の方であるとみられる。最大限の譲歩を行う用意があると金正恩は述べトランプを自らの術策に引き摺り込み多大な見返りを要求することが予想される。そのために非核化の完遂に至る長期に及ぶ工程表を金正恩は提示すると目される。非核化に至る工程表は数段階からなると想定される。(つづく)
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