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2018-03-06 17:21
(連載1)北朝鮮核・ミサイル危機の破滅的結末の展望
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
トランプ政権に疑問の余地がない形で対米核攻撃能力を獲得したことを金正恩指導部が実証しようとすれば、李容浩北朝鮮外相が2017年9月21日にほのめかした「太平洋上での水爆実験」の実施に移ることが想定される。すなわち、深夜に核弾頭搭載「火星15」型ICBM(大陸間弾道ミサイル)を通常軌道で太平洋方面に発射し、米本土に近接した太平洋上空で核爆発を行う実験を金正恩指導部がいずれ強行するのではないかとみられる。これに対し、ICBM発射実験が深夜に強行される場合、発射に向けた予兆を事前に察知することは極めて困難であると推察されることから、発射準備態勢にあるICBMに対する軍事的選択肢の発動たる空爆を敢行することは、決して容易ではないと考えられる。こうしたことから同ICBMが発射される場合、太平洋上空での核爆発実験を阻止するためにミサイル防衛システムによって迎え撃つ態勢を講ずるであろうと推察される。米国にとって飛来するICBMに対するミサイル迎撃実験となるが、ミサイル迎撃に成功するかどうかは予断を許さない。迎撃に成功すればミサイル防衛システムの迎撃能力が高く評価される一方、反対に迎撃に失敗することがあれば、同システムの信憑性は地に落ちるとも限らない。
他方、ミサイル迎撃と別に軍事的選択肢の発動をトランプ政権は堅持するであろうと考えられる。その場合、発射準備態勢にあるICBMに対する軍事的選択肢の発動が覚束ないと判断されれば、その発動対象は核・ミサイル関連施設へと切り替わるのではないかと推察される。第一の目標は寧辺の核関連施設であろうと目される。1994年6月の危機の際にクリントン政権が空爆の目標に据えた問題の核関連施設である。同地区には電気出力5000キロ・ワット級黒鉛炉、再処理施設、核廃棄物貯蔵施設、核燃料製造工場など、これまで北朝鮮のプルトニウム開発計画において中心的役割を果たしてきた施設が集中しているが、それらの施設は空爆により壊滅的な破壊に曝されるであろう。また寧辺の核燃料製造工場内に設置された施設で高濃縮ウラン開発計画が大々的に進められているが、空爆により同計画も大打撃を被るであろう。
第二の目標は核実験が繰り返し行われてきた豊渓里であろうと目される。過去6回に及ぶ総ての核実験が豊渓里の地下坑道において行われてきたことを踏まえると、豊渓里への空爆により金正恩指導部は核実験場を一挙に失うことになりかねない。寧辺の核関連施設と豊渓里の核実験場はその位置が特定されていることから空爆による破壊は米軍にとってさほど難しいとは思われない。その結果、寧辺以外の何処かの核関連施設に秘匿されている核分裂性物質などを別にすれば、北朝鮮の主要な核関連施設は再建の目途が立たない程に大打撃を受けることになりかねない。他方、「核強国」を自負する北朝鮮の最重要の二つの核関連施設が壊滅的な打撃を受けることがあれば、金正恩がこれを座視することはないであろう。手勢の戦力を投入し大規模の報復行動に金正恩は打って出ることが予想される。まず案じられるのは南北を分ける軍事境界線の北側に配置された多連装ロケット砲や自走砲など長距離砲によるソウル首都圏に向けた一斉砲撃である。少なくとも数日間に及び続くであろうとみられる一斉砲撃によりどの程度の被害をソウル首都圏が被るかが重大な問題として表出する。米韓連合軍からすれば砲撃による被害を可能な限り低く抑えたいところであろう。
これと並行して朝鮮人民軍の戦車師団が韓国領内に雪崩れ込むのに対し、米韓連合軍が直ちに激しく応戦する結果、朝鮮半島中央部において大規模な軍事衝突が勃発する可能性が高い。米韓連合軍の航空戦力がいち早く制空権を握り、上空から友軍に対する近接航空支援を行う一方、韓国領内に雪崩れ込んだ朝鮮人民軍の戦車師団と軍事境界線付近に展開する前線砲兵部隊に対し激しい爆撃と機銃掃射を浴びせることが予想される。これに伴い、戦闘で優位に立った米韓連合軍は朝鮮人民軍の戦車師団を軍事境界線の北方に押し返し、その勢いで軍事境界線を突破、北進するとみられる。米韓連合軍の目標には平壌の制圧や平壌の指揮部に潜む金正恩に対する「斬首作戦」が含まれるであろう。また北朝鮮領内に点在する核兵器を含めた大量破壊兵器の確保が北進する米韓連合軍にとって重要な課題となろう。戦闘における米韓連合軍の圧倒的有利が確実視されるとしても、不確定要素が付きまとう。特に懸念されるのは緒戦における朝鮮人民軍前線砲兵部隊の一斉砲撃によりソウル首都圏が被りかねない被害規模、これと並行して発生するであろうと推察される朝鮮人民軍と米韓連合軍の衝突による被害規模であろう。中国人民解放軍の介入の可能性も不確定要素であろう。(つづく)
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