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2018-02-07 19:45
(連載1)「敵基地攻撃」検討の必要性
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
日々深刻化する北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対処する上で、わが国のミサイル防衛システムは必ずしも万全であるとは言い難い。こうしたことから、ミサイル防衛システムを拡充することが喫緊の課題となっている。加えて、ミサイル防衛を補完する手段として潜在的な敵国がわが国に向けて弾道ミサイルを発射する前に当該ミサイルを含め、核関連施設やミサイル関連施設に対し先制攻撃(preemptive strike)(この種の形態は予防攻撃(preventive strike)を指すが、先制攻撃という用語が一般的に使用されることから、本稿では先制攻撃に統一する)を敢行することによりミサイルの発射を未然に阻止すべきではないかという議論が従来から行われてきた。これが「敵基地攻撃」(あるいは「敵基地攻撃能力」、本稿では「敵基地攻撃」に統一する)と呼称される対抗手段である。
わが国のミサイル防衛システムの抱える制約を踏まえると、北朝鮮の核・ミサイル関連施設に対する先制攻撃の必要性が問われないわけではない。と言うのは、ミサイル防衛システムの迎撃能力を高めるためには、まず相手の攻撃ミサイルの大部分を「敵基地攻撃」により削ぎ落とす必要があると考えられるからである。言葉を変えると、「敵基地攻撃」を通じ北朝鮮の核・ミサイル関連施設に対し相応の被害を与え、破壊を免れた少数のミサイルがわが国に向けて発射された際にそれらを迎撃する手段としてミサイル防衛が実効性を持つと考えられる。またそうした展望の下で、ミサイル攻撃が失敗に帰す可能性を案じた北朝鮮指導部がミサイル攻撃を控えるとの推論に立ち、抑止の強化につながるとする論議が行われてきた。とは言え、「敵基地攻撃」は専守防衛を掲げるわが国の安全保障政策の根幹と抵触しないであろうか、また技術的に実行可能であろうかなど、幾つもの課題が生じる。
2006年7月に当時の金正日指導部がテポドン2号を試射したことを契機として、「敵基地攻撃」を巡る議論がわが国の政府関係者の間で一気に沸騰した。これに対し、当時の盧武鉉韓国大統領が猛反発しただけでなくブッシュ政権も極めて消極的な見方を示した。しかしそれから十年以上も経ち、わが国を取り囲む安全保障環境が劇的な変化を遂げる中で、「敵基地攻撃」が改めて叫ばれている。わが国での「敵基地攻撃」と類似した対抗手段はトランプ政権、米韓連合軍、韓国軍においても選択肢の一つとしてすでに練られている。遠からず米本土を射程に捉える対米ICBM(大陸間弾道ミサイル)が完成すると目される状況の下で、トランプ政権は北朝鮮の核弾頭搭載弾道ミサイル攻撃拠点に対する先制攻撃を選択肢の一つとして検討を進めている。そうした先制攻撃はしばしば「外科手術式攻撃」や軍事的選択肢と呼ばれている。また米韓連合軍は朝鮮半島有事を想定し「作戦計画5015(“OPLAN5015”)」を2015年に策定し、それに従い訓練を重ねている。「作戦計画5015」は北朝鮮の核攻撃発動拠点に対し先制攻撃に打って出ることを辞さないことを前面に掲げている。すなわち、北朝鮮が核ミサイルを発射する兆候を探知次第、その攻撃発動拠点を叩くというものである。
さらに米韓連合軍の「作戦計画5015」とは別に、韓国軍は独自で「キルチェーン(Kill Chain)」という呼称で核ミサイル攻撃発動拠点への先制攻撃態勢の構築を進めている。北朝鮮の核攻撃能力が劇的に向上していることに伴い脅威が漸次高まりつつある中で、呼称はそれぞれ異なるものの、核攻撃発動拠点に対する先制攻撃を米軍、米韓連合軍、韓国軍も検討し、推進していると言えよう。米軍の軍事的選択肢、米韓連合軍の「作戦計画5015」、韓国軍の「キルチェーン」などは朝鮮半島を取り囲む安全保障環境の劇的とも言える悪化に対処する必要性から出てきたものである。とは言え、わが国の文脈において「敵基地攻撃」を考察する際、論じられなければならない課題は少なくない。(つづく)
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