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2017-12-18 11:49
(連載1)北朝鮮危機に対する習近平指導部の姿勢の変化
斎藤 直樹
山梨県立大学教授
間断なく続く金正恩指導部による核・ミサイル開発に歯止めをかける上で習近平指導部が鍵を握るとトランプ大統領は認識してきた。2017年4月2日にトランプは「中国が北朝鮮問題を解決しなければ、我々が解決する」と言明した。すなわち、金正恩指導部の核・ミサイル開発と軍事挑発を止めるためには北朝鮮経済の存立にとって鍵を握るとされる習近平指導部が実効性ある圧力を加えなければならないこと、もしも中国ができないようでは米国が自ら解決すると明言した。金正恩を動かす上で実質的な梃子を持ちえるのは中国であるとのトランプが認識しているからに他ならない。このことは中朝貿易額が北朝鮮の全貿易額の九割以上に及ぶことに加え、北朝鮮が消費する石油のほとんど総てを中国からの輸入に依存していることをみれば明らかである。
こうした現実を踏まえた際、もしも習近平指導部が北朝鮮への全面的な石油供給制限を決断することがあれば、北朝鮮の備蓄燃料は遅かれ早かれ枯渇し、これに伴い北朝鮮経済は麻痺しかねないことが考えられる。朝鮮人民軍の活動も一般の国民生活も甚大な打撃を受けかねず、これにより金正恩体制が動揺を来たすことが想定される。もしも同体制の基盤が揺らぎ出せば、危惧されるありとあらゆることが現実に向かいかねない。北朝鮮国民の生活が絶望的状態に陥ることになれば、膨大な数に上る北朝鮮国民が大挙して中国との国境に殺到する可能性もある。習近平指導部とすれば、北朝鮮との国境を統制する必要を感じるであろう。また体制崩壊の危機に直面し自暴自棄となった金正恩指導部は韓国への軍事侵攻を断行するかもしれない。しかし朝鮮人民軍による軍事侵攻は米韓連合軍による猛反攻を招くことは必至である。その結果、朝鮮半島中央部で大規模の軍事衝突に発展する可能性が高い。もしも米韓連合軍が南北を分ける軍事境界線を突破し北進することがあろうものならば、習近平指導部も中国人民解放軍の軍事介入を真剣に検討せざるをえなくなりかねない。
はたまた国家存亡の危機をいとわない金正恩につくづく愛想を尽かした軍の一部が反旗を翻し、軍事クーデターを決行するかもしれない。あるいは数十年に及び抑圧されてきた北朝鮮国民が一斉蜂起に打って出る可能性もないわけではないであろう。習近平指導部にとってそうした道筋はまさしく「パンドラの箱」を自ら開けるようなものである。全面的な貿易の遮断や石油供給制限は北朝鮮の体制崩壊をもたらしかねないとの危惧を習近平指導部は真剣に抱いている。したがって、習近平にとって北朝鮮との貿易を全面的に遮断したり、石油の供給を停止するような行動を躊躇せざるをえないのである。とは言え、2017年を通じ核・ミサイル開発に向けた金正恩指導部の狂奔が続く中で、北朝鮮に対する習近平指導部の基本姿勢は大きく変わりつつある。金正恩指導部が習近平指導部に2017年4月中に第6回核実験を行う予定であると通告したところ、強い危機感を覚えた習近平指導部がもしも核実験を強行することがあれば、石油の供給制限を含む中朝間の貿易を全面的に遮断すると、かつてない圧力を掛けた。これを受け、金正恩が不承不承、4月中に核実験を強行するのを思い止まった。石油供給の制限という脅しは金正恩をして核実験を取り止めさせるだけの実効性を持っていることを物語った。
その後、国連安全保障理事会での対北朝鮮経済制裁を巡る審議において習近平指導部は採択へ消極的な持論を展開しながらも最終的に決議の採択を支持した。7月4日の「火星14」型ICBM発射実験を受け、8月5日に採択される運びとなったのが決議2371であった。同決議の採択を巡る審議においても習近平指導部は当初、反対の意思表示を繰り返したが、最終的に姿勢を一転させ採決への支持に回った。決議2371の骨子は北朝鮮による石炭、鉄、鉛などの輸出の全面禁止、海産物の輸出の禁止、外国への北朝鮮労働者の追加派遣の禁止、四機関と九個人を新たに制裁対象に加えるなどであった。これにより、石炭、鉄、鉛などに加え海産物といった北朝鮮の主な輸出品目の輸出が全面的に禁止されることになった。(つづく)
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