清末から民国にかけての上海を舞台にした最新映画『上海王( Lord of Shanghai)』を見ていて、すっかり忘れていたことに気付いた。マフィアの仲間が一時身を隠すため、「東洋に行く」と話すセリフがある。英語の字幕は「Japan」とある。中国で東洋、東瀛(とうえい=瀛は大海の意味)といえば日本を指す。大陸国家の中国にとって、大海の先にある日本は、伝説に包まれた島国として強く意識されていた。日本での東洋はアジア全域を指し、西洋との対比として誕生した。「洋」とは言っても、海を基準とする厳密な概念ではなく、近代以降、欧米文化の流入によって生まれた文化的な区分を含む。地理的にどこからどこまでと明確な線引きができるわけではない。「西洋(オクシデント)」に対する「東洋(オリエント)」は、いわば借りてきた概念だ。日本人が東洋というとき、自分が含まれているのかいないのか、なにを中心としているのか、どこか座りが悪いのはそのためである。