国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百家争鳴」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-12-02 21:35

「洋の東西」に分ける日本と「東方西方」の中国

加藤 隆則  汕頭大学長江新聞與伝播学院教授
 清末から民国にかけての上海を舞台にした最新映画『上海王( Lord of Shanghai)』を見ていて、すっかり忘れていたことに気付いた。マフィアの仲間が一時身を隠すため、「東洋に行く」と話すセリフがある。英語の字幕は「Japan」とある。中国で東洋、東瀛(とうえい=瀛は大海の意味)といえば日本を指す。大陸国家の中国にとって、大海の先にある日本は、伝説に包まれた島国として強く意識されていた。日本での東洋はアジア全域を指し、西洋との対比として誕生した。「洋」とは言っても、海を基準とする厳密な概念ではなく、近代以降、欧米文化の流入によって生まれた文化的な区分を含む。地理的にどこからどこまでと明確な線引きができるわけではない。「西洋(オクシデント)」に対する「東洋(オリエント)」は、いわば借りてきた概念だ。日本人が東洋というとき、自分が含まれているのかいないのか、なにを中心としているのか、どこか座りが悪いのはそのためである。

 中国は、日本人が分ける「洋の東西」について、東方、西方と言う。近代以降、日本から多数の和製漢語を取り入れた中国だが、「東洋」「西洋」は受け入れなかった。西方がユーラシアと陸続きになっている中国は、大海によって世界を分ける発想がないからだ。海洋進出についても、明代の永楽帝が鄭和に遠洋航海を命じ、アフリカにまで到達しているが、王朝の権威を高める朝貢の強要が主たる目的で、領土拡張にはつながっていない。陸戦は重ねてきたが、概して海洋に対しては無頓着である。毛沢東の軍事戦略も海軍建設よりは、核兵器開発と陸上戦の両面をとった。沿海部の軍事工場を内陸に移したのはそのためだ。鄧小平時代以降、中国は沿海部を改革開放の拠点と位置づけ、海の外に目を向け始める。そして今、習近平総書記がさかんに二つのシルクロード経済圏「一帯一路」をアピールしている。

 大陸続きに中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト(一帯)」と、沿岸部から東南アジア、アラビア半島、アフリカ東岸に至る「21世紀海上シルクロード(一路)だ。中国からみた東方と西方を結びつける発想である。グローバル化の中で、中国が歴史的な発展を踏まえて提示した戦略と位置づけることができる。習近平の父は、かつてシルクロードの中心だった陝西省で生まれ育ち、彼自身も同省の農村で暮らした経験がある。また、沿海の福建、浙江省で長く党・政府の経験を積んでいる。陸と海の両面から世界を把握する発想を持っているとみるべきだ。

 日本はシルクロードの終着点として多くの文物を受け入れ、現代にまで伝える貴重な役割を担ってきた。だが、「洋」にとらわれる地理的な制約から、大陸を起点とする発想に欠けている。陸の向こうに広大な世界が広がっていることにも目を向けるべきだ。そこから目を背ければ、おのずと太平洋をはるかに隔てた米国への一辺倒に向かうしかなくなる。トップ同士がゴルフをしただけで大騒ぎをしている日本のメディアは、頭を冷やし、世界地図を広げながら歴史を回想した方がいい。ヨーロッパは米国の先にあるのではなく、中国の西方に陸続きで存在し、功罪を含め、往来を続けてきた歴史がある。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百家争鳴』から他のe-論壇『百花斉放』または『議論百出』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
東アジア共同体評議会