市場主導で進んできたアジアの地域統合において、中国の果たしている役割は非常に大きい。米国の経済学者であるエドワード・リンカーンは、2年前に出版した「East Asian Economic Regionalism」と題する著書において、アジア域内の相互依存関係が深まっていると言っても中国の経済成長によるところが大きく、その影響を除外すれば顕著な変化は見られないとして、アジアにおける経済統合の動きを批判的に論じ、APECの活性化を慫慂している。同書には彼独特の日本批判が相変わらず散見されるが、ここでそれは問わないとしても、中国の経済成長の影響を排除してアジアの地域統合を評価しようとしているところに根本的な問題がある。彼が言うように中国はアジアに限らずそれ以外の国とも貿易量を拡大しているのは事実であるし、アジアにとって米国との関係が引き続き重要であるということにも異論はない。しかしながら、アジアにおいては国境を越えた生産ネットワークが形成されつつあり、そうした分業体制の中で中国が最終アセンブラーとして急成長しているのであって、アジアの地域統合と中国経済の成長とは切っても切れない関係にある。