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2006-12-04 00:00
アジア経済の地域統合と中国
村上正泰
日本国際フォーラム主任研究員
市場主導で進んできたアジアの地域統合において、中国の果たしている役割は非常に大きい。米国の経済学者であるエドワード・リンカーンは、2年前に出版した「East Asian Economic Regionalism」と題する著書において、アジア域内の相互依存関係が深まっていると言っても中国の経済成長によるところが大きく、その影響を除外すれば顕著な変化は見られないとして、アジアにおける経済統合の動きを批判的に論じ、APECの活性化を慫慂している。同書には彼独特の日本批判が相変わらず散見されるが、ここでそれは問わないとしても、中国の経済成長の影響を排除してアジアの地域統合を評価しようとしているところに根本的な問題がある。彼が言うように中国はアジアに限らずそれ以外の国とも貿易量を拡大しているのは事実であるし、アジアにとって米国との関係が引き続き重要であるということにも異論はない。しかしながら、アジアにおいては国境を越えた生産ネットワークが形成されつつあり、そうした分業体制の中で中国が最終アセンブラーとして急成長しているのであって、アジアの地域統合と中国経済の成長とは切っても切れない関係にある。
したがって、アジアの地域統合を展望していく上で、中国経済が今後どのような道を歩むのかは重要な意味を持つ。中国は急速な経済成長を続けているけれども、しばしば指摘されるようにバブル崩壊懸念、不良債権処理、人民元改革など数多くの問題を抱えている。中でも構造的に見てとりわけ問題となるのが、市場経済の最重要な基盤である私的所有権が確固として確立していないという点であろう。市場経済化の方向でさまざまな改革が進んできており、2004年には私的所有権保護も憲法改正で明記されたが、法制度の整備はいまだ不十分である。こうした状況は、腐敗の土壌を作り出すうえに、民間企業の発展の足を引っ張ってしまう。その他にも経済活動における制約はまだまだ多い。中国経済が持続的な成長を続けていくためには、社会主義の残滓をいかに払拭していくかが鍵になる。
経済システムはそれぞれの歴史的な経路依存性の中で進化していくものであり、各国の独自性は認めていかなければならない。アジアには発展段階の差異に解消しきれない経済制度面での多様性が存在している。しかしながら、地域統合を目指していく上では、基本的なところで制度の調和をどのように図っていけるかが大きな課題となる。特に、地域統合の大きな核となっている中国において、私的所有権などの構造問題が大きなハードルとなっていることには留意しておかなければならない。我が国は、こうした点も含めて中国当局と一層緊密で積極的な協議を行っていく必要がある。
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