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2015-04-14 17:00
アラビア半島をめぐる地政学
川上 高司
拓殖大学教授
アラビア半島南端のイエメンでは、昨年末に北部のシーア派であるホーシ派が勢いを増し、南部のスンニ派と対立が先鋭化していた。ホーシ派はイランの支援を受けていると言われており、国境を接するサウジアラビアにとっては脅威に映ったようだ。今年3月末にはとうとうサウジアラビアはホーシ派を標的として空爆を開始し、イエメンではシーア派系ホーシ派とスンニ派の対立が激化し内戦状態となっている。サウジアラビアは、この空爆に参加協力するように同じスンニ派であるパキスタンに要請した。サウジアラビアは長年パキスタンに多大な支援をしてきており、昨年も15億ドルの支援を実施している。パキスタンもこれまではサウジアラビアの要請に逆らったことはなく、素直に要請があれば応じてきた。
だが、今回は様子が違う。パキスタンでは軍の決定権は首相にある。現在はシャリフ首相が決定権を持っている。シャリフは国外亡命時代はサウジアラビアに滞在しており、その結びつきは強い。だが、今回の要請に対してシャリフ首相はパキスタン議会に派兵するかどうかを諮った。それを受けて議会は派兵に反対を表明、パキスタンのサウジ離れが明らかとなった。パキスタンがサウジアラビアの空爆に参戦すれば、当然ながらイランを敵にまわすことになる。一方で4月8日には、イランのザリフ外相がパキスタンを訪問しパイプラインの話を詰めたばかりである。イランからパキスタンにパイプラインが伸びれば、パキスタンは安定した資源の獲得が期待できる。パキスタンとしては、遠く隔たった地での宗派対立に巻き込まれたくないのは当然だろう。パキスタンはトルコのようにサウジアラビアと距離を取り始めたようだ。
スンニ派国家としてシリア内戦ではサウジアラビアとともにスンニ派武装グループを支援してきたそのトルコだが、やはり最近はイランよりに外交を転換しつつある。4月7日のイラン訪問前、エルドガン首相は、サウジの空爆に参加することを示唆したり、イランへの経済制裁に加わるような発言をするなどして、イラン側の不信感を買っていた。だがいざテヘランで会合すれば「イスラムはひとつ、シリアとイエメンの和平のために一緒に調停しよう」を呼びかけ、経済についても「さらなる協力関係を築く用意がある」と関係深化を申し出ている。
トルコはイランから天然資源を輸入しており、その安定確保が宗派対立よりも優先課題となっているのである。イランとの接近は、サウジと距離を置くこととなる。パキスタンにしろトルコにしろ長年スンニ派国家としてサウジアラビアと共にスンニ派を代表してきたが、アメリカとの関係が改善しつつあるイランの台頭によって地政学が大きく変わりつつある。アメリカとイランの宥和とサウジアラビアの影響力の低下はコインの裏表であり、その衝撃がじわじわと現実のものとなりつつあるようだ。
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