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2014-07-04 10:49
(連載2)小日本主義から大日本主義へ大転換される国家戦略
加藤 朗
桜美林大学教授
アジアの情勢が変化しなければ、日本はミドルパワーとして小日本主義の国家戦略を曲がりなりにも維持できたかもしれない。しかし、21世紀に入ってからの中国の軍事的、経済的台頭が、アジアの安全保障環境を劇的に変化させた。安倍政権はこの変化に、古典的な勢力均衡概念に基づき、日米同盟の強化、東南アジア諸国との連携によって対処しようとしたのである。それはまさしく、アジア地域の新たな秩序形成に日本が積極的に参加する大日本主義の国家戦略に他ならない。この国家戦略の転換に伴い、国防の基本方針に代わる新たな国家戦略の策定、国家安全保障会議の設置、秘密保護法の制定、武器輸出三原則の見直しそして集団的自衛権行使容認が、矢継ぎ早に行われたのである。
これまで、日本の小日本主義を前提として維持されてきた東アジアの勢力均衡は、中国の台頭により大きな地殻変動を起こしつつある。韓国は中国の事実上の同盟国になりつつあり、日本とはもはや対立関係にある。慰安婦問題や歴史認識問題があって日韓が対立しているのではない。中韓「同盟」を正当化する口実として、これらの問題が使われているのであり、謝罪や和解といったことでは解決できない問題となった。他方中韓「同盟」に反発して、北朝鮮が日本と親密な関係を模索するという、敵の敵は味方を実証するような奇妙な現象が起きている。これまでの六か国協議の枠組みは崩壊しつつある。
さらに目を東アジア地域以外に転ずれば、東南アジア諸国では、中国の強引な海洋進出でこれまでの秩序が掘り崩されようとしている。また、中東はもちろんアフリカでもイスラム勢力が拡大を続け、中東の地域やシリア、イラクなどの既存の秩序を破壊しつつある。ロシアが関与したクリミア問題もまた既存の国際秩序に大きな打撃を与えている。そして何よりも、アメリカがかつてほど秩序形成の能力も意志も失ってしまったことが、世界の最大の不安定要因である。
こうした状況を踏まえ、安倍首相が出した答えが、国際秩序の形成に積極的に関わる大日本主義である。もちろん現状では日本単独でできるわけもなく、日米同盟の下、アメリカの指示により秩序形成に関与することになる。確かに集団的自衛権行使の範囲は、現時点では限定的である。しかし、事の本質は行使の範囲が限定的かどうか、立憲主義に反しているかどうか、論議が十分に尽くされたかどうかではない。今は、小日本主義から大日本主義への国家戦略が大転換されたことの意味、その影響、そしてそれでもなおかつこれまで通り平和国家としてのブランドを維持することができるかどうかを議論すべきである。(おわり)
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(連載1)小日本主義から大日本主義へ大転換される国家戦略
加藤 朗 2014-07-03 19:10
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(連載2)小日本主義から大日本主義へ大転換される国家戦略
加藤 朗 2014-07-04 10:49
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