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2014-01-24 11:06
(連載2)日本の民主主義と靖国神社の価値観
河村 洋
外交評論家
私は靖国に関する安倍氏の見解には同意しないが、同氏の前提が正しいとすれば、参拝のタイミングは絶妙だったと言える。安倍氏が靖国神社で戦争犯罪人への追悼を行なったのは12月26日であるが、それはまさに毛沢東の生誕日でもあったからである。習政権は、現在毛思想への回帰によって社会格差や腐敗を是正する政策を掲げている。また、日本は南スーダンで韓国軍に銃弾を供与したタイミングの心理的な優位を利用したともいえる。しかし、韓国は安倍氏の軍国神社参拝に抗議するために中国と共同行動をとることは拒否した。韓国のユン・ビョンセ外相は「歴史認識の違いはあっても、韓国としては日米との戦略提携の深化によって東アジアの安全保障に対処しなければならない」と述べている。メディアがこれらのことに言及しないのは不思議でたまらない。
日本外交の最優先事項である日米同盟に関しては、安倍氏は長年にわたる懸案で、しかも鳩山政権が混乱に陥れた沖縄の普天間海兵隊基地問題を解決した。この点から、安倍氏はアメリカが靖国問題に寛容であるはずだと期待したのかも知れない。たとえホワイト・ハウスと国務省が靖国参拝のようなナショナリスト姿勢に不快感を抱こうとも、米国の軍産複合体は安倍氏のこのような姿勢により理解ある態度を示すだろうと期待できるからである。アメリカとヨーロッパで国防予算が削減されているなかで、中国の海洋支配に対抗するため防衛費を増額しようとしている日本は、有望な市場だからである。その中でも対日輸出の目玉商品はボーイング社製のP8A対潜哨戒機で、同機はノースロップ・グラマン社、レイセオン社、ゼネラル・エレクトリック社といった他の大手軍事企業からも部品供給を受けている。したがって、多くの軍事企業がこれに関心を抱いている。
日本国内および海外の論客たちは安倍氏の軍国神社参拝を軽はずみだったと批判するが、私は上記の観点から見て必ずしもそうとは思わない。軍産複合体が味方についている限り、安倍氏が「オバマ政権がナショナリスト姿勢に嫌悪感を抱こうとも、それはとるに足らぬものだ」と思っても、何ら不思議はない。むしろ安倍氏の行動は、リシュリュー枢機卿を彷彿とさせるほど機略に富んでいたように思われる。しかし、策士策におぼれたのではないかという感も否めない。靖国神社の基本的価値観には根本的な問題があり、これには太平洋戦争の戦勝国であるか、敗戦国であるかは、関係ないからである。
不思議なことに、靖国神社参拝に積極的な永田町の政治家達の間には、この神社への参拝がどうして現在の世界で普遍的に受け入れられるのかを説明しようとする者はほとんどいない。また、軍国神社の神官達も説明責任の向上のために行動しているとはとても思えない。最も象徴的な事象として、「天皇陛下万歳!」と「アラー・アクバル!」の違いを説明する必要がある。神の名に基づいて自爆攻撃を命ずるイデオロギーなどは、どのような民族、文化、宗教にあっても受け入れられるべきものではない。私は国家に命を捧げた人物を追悼することには何ら異議はない。しかし、参拝の前に、現在の靖国神社のあり方は再考されるべきである。問題は中国と韓国の抗議でも、アメリカの失望でもない。本当に考えるべきは、民主化された日本においてこの神社がどのような意味合いを持つのかである。(おわり)
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