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2013-08-28 18:52
決断迫られる米政権:シリア軍事介入をめぐって
川上 高司
拓殖大学教授
8月22日、ダマスカス近郊で化学兵器が使用され多数の犠牲者が出たが、これはシリア政府による攻撃であるとシリア反政府勢力からの発表があった。この発表に対して直ちに国連では安全保障会議が開かれ対応を検討した。折しも化学兵器に関する国連査察団がダマスカスに滞在していたところだった。アサド政権は化学兵器の使用を否定し査察団による調査を受け入れる姿勢を示しているが、誰が化学兵器を使用したかの真実はいまだ不明である。
「シリア政権が化学兵器を使用した」として英仏は軍事介入を強硬に主張し、25日、イギリスのキャメロン首相はオバマ大統領と電話で話し合ったという。オバマ政権内では、シリアへの介入を求めるケリー長官とライス補佐官、介入に反対するヘーゲル国防長官とディンプシー統合参謀本部議長が対立している。また、マケイン上院議員は軍事介入の圧力を強めている。板挟みになっているオバマ大統領自身は介入には消極的なため、介入の準備を指示したものの相変わらず曖昧な態度でプレッシャーをかわしているが、国内外からの介入への圧力にどこまで耐えられるのだろうか。オバマ大統領の一声で内戦が地域戦争へと拡大する可能性は高い。
アサド大統領は化学兵器の使用を一貫して否定し、欧米による軍事介入は「必ず失敗する」と不気味な予言をしている。つまり、シリアに介入すればその結果はイラクやアフガニスタン、リビアを見れば火を見るより明らかだというのだ。リビアでは英仏が空爆に強硬路線をとり、引きずられるようにアメリカは関与せざるを得なくなりかろうじて後方支援にとどまった。欧米の介入によってカダフィは政権から転落したが、その後のリビアは民主化とはほど遠くもはや破綻国家に等しい。シリアでも英仏は強硬路線をとり、リビアの時と同じ道をたどりつつある。だが今回はアメリカは後方支援という消極的な関与では済まないかもしれない。軍事介入がもたらす結果はアサド大統領が言うようにはっきりしている。さらにシリアの場合は宗派闘争が絡んでいるのでシリア周辺国にも紛争が拡大する。そうなればアメリカは地上部隊を送らざるを得なくなり、ディンプシー統合参謀本部議長がかつて「どのようなプランをとっても深入りは避けられない」と警告したように、終わりなき戦争に突入することになりかねない。
追い込まれているオバマ大統領にとって一番心強いのは民意であろう。ロイターの直近の世論調査によればアメリカ国民の60%が介入に反対している。介入に賛成しているのはわずか9%である。さらに、たとえ化学兵器の使用があっても介入してはならないと考えている国民は46%、介入すべきであるとする25%を圧倒的に上回っている。民意はどんな状況になろうとも介入には反対しているのである。「民意に逆らって介入を強硬することはできない、それが民主主義だからだ」とオバマ大統領は是非お手本を見せて欲しい。
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