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2013-02-22 14:56
財務長官はきまじめな数字オタク
川上 高司
拓殖大学教授
2008年の金融危機を乗り切ったガイトナー財務長官は早くから辞任の意向を表明していた。ユーロ危機でもヨーロッパを支えアメリカ経済の回復に尽力したその手腕は高く評価されるので惜しまれるが、ニューヨーク連銀で総裁を勤めていた時以来、危機に追われてきた身としては十分尽くしたという気持ちが強いのだろう。アメリカ経済の回復は上向きとはいえ確固たるものではない中、次の財務長官にオバマ大統領はジェイコブ・ルー大統領主席補佐官を指名した。そのあまりにも地味な存在に、アメリカのみならず世界でも「誰だ?」と思った人々は少なくないだろう。
ルーはポーランド系で敬虔なユダヤ教徒である。57歳とオバマと年齢が近く、CIA長官に指名されたジョン・ブレナンとは同い年である。ニューヨークで生まれ育った生粋のニューヨーカーで、いまでもニューヨークから離れない。ハーバード大学とジョージタウン大学を卒業した、まさに東部エリートである。議員の補佐官を務めた後にクリントン政権時代に予算管理局局長、大統領のアドバイザーを務めた。ブッシュ政権時代にはシティグループに席を置き、2008年のリーマンショックの時はまさにシティにいてガイトナーとは反対側から金融危機を体験した。
オバマ大統領の時代になると国務副長官としてクリントン長官に仕え、予算管理局局長、大統領首席補佐官と歴任した。きまじめで数字オタクなルーは寡黙で地味だが、ひとたび数字を語らせると饒舌で情熱的になる。さすがのオバマ大統領もルーの予算報告が始まると、「君にまかせるよ。信頼しているから」と報告を打ち切ってしまうほどだという。大統領の信頼が厚いことは確かだ。議会でも共和党相手に手強い交渉を展開するが、なぜか共和党からの信頼は抜群に厚く人気者である。議会に受けがよくて顔の効くルーの起用は明らかに議会対策で、予算問題や財政問題を一手にまかせる腹づもりなのだろう。世界の舞台では知名度が限りなくゼロに近いルーにガイトナーのような華やかな活躍は求めていないということだ。
ルーの起用の唯一の懸念は、こどものいたずら書きのようなサインだ。財務長官のサインはドル紙幣に印刷される。世界中で飛び交うドル紙幣にこどものいたずら書きのようなサインでは威厳もなにもないと当局は頭を痛めている。だが「それもいいではないか」と歓迎する人々も少なからずいるところを見ると、何をしても憎めない存在なのだろう。しかしそんな人当たりの良さにうっかり乗せられると痛い目に遭う。数字で攻めるオタクな財務長官だからこそタフな交渉相手なのだ。
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