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2012-09-27 06:57
安倍の「超タカ派」路線は修正を迫られる
杉浦 正章
政治評論家
安倍晋三の自民党総裁返り咲きは、中国と韓国のおかげだ。尖閣・竹島をめぐる両国の理不尽な行動が、自民党国会議員の「右バネ」を強く働かせた結果であろう。総裁選勝利というと、どうも首相になったような錯覚を覚えるし、メディアの報道ぶりもその傾向がある。しかし、安倍は首相・野田佳彦を解散・総選挙に追い込み、選挙に圧勝しなければ、首相になれない。考えれば、それだけでエネルギーを使い切ってしまいかねないほどの大事が控えている。さらに重要なのは、安倍の総裁選での公約が、実際の政権運営においては現実性を欠き、民主党のマニフェストと同じで、“虚言”になりかねない問題をはらんでいることである。安倍は総裁選に勝ちたい一心で、確実に修正を余儀なくされる問題を山積みにしてしまった。傑作なのは、元議長・河野洋平がテレビで立候補した5候補について「自民党はずいぶん幅の狭い政党になった。保守の中の右翼ばかりだ」とぼやいたことだ。その“右翼”中でも“最右翼”が総裁になったのだから、今どき流行らない“左翼”の河野としては、泣くに泣けまい。石破茂が決戦で敗北したのは、言うまでもなく長老支配の残照にやられたのだろう。もう一息で消え去る見込みの長老ごときにやられては、運が悪いとしか言いようがない。石原伸晃が初回の選挙で2位に達せず敗退したのは、羽毛のごとき軽さにある。総裁・谷垣禎一を簡単に裏切ったことも軽いし、発言も軽い。首相になればすぐに不信任案を突きつけられるという危機感が、石原への地方票を離した。
こうして安倍が登場したわけだが、まず最初の仕事は、野田をいかにして解散に追い込むかだ。おそらく谷垣は、野田との個別会談を詳細に安倍に教えて、狙うべき“隙”を伝授するだろう。安倍はまず谷垣から民主党幹事長・輿石東も知らない会談内容を聞くことが必要だ。野田が来月1日にも内閣改造した後の民・自・公3党党首会談がその“血戦”の場の第一ラウンドとなる。安倍は明らかに谷垣の獲得した「近いうち解散」の約束に固執する姿勢だ。安倍は「谷垣総裁は『近いうち』の言葉を信じて消費増税に賛成した。まずそのことを保障して貰う」と約束履行を求める構えだ。「近いうち」の時期については、「臨時国会だと思う」と“10月解散”を念頭に置いている。解散反対の権化輿石に関しても「総理が決断すること」と述べて、“輿石相手にせず”の方針を明確にしている。安倍の就任後最大かつもっとも急を要する仕事が「解散」だ。何が何でも解散に追い込もうとするだろう。
次に重要なのが、総選挙対策だ。安倍は「強い日本」を前面に出して最右翼の持論を展開している。超タカ派と言ってもよい。しかし、この路線が総選挙に向け提示可能かどうかである。もちろん「尖閣の中国」と「竹島の韓国」を意識した発言であり、両国が刺激的な対応を繰り返しているうちは総選挙向けに絶好の材料であり、10月解散なら通用するだろう。しかし首相になった後に通用するかというと、疑問がある。まず大きな路線は、改憲と日米同盟の強化だが、これは自民党として当然の政策であり、問題は生じない。集団的自衛権行使についても、憲法解釈でやることは不可能ではないし、やるべきだろう。しかし問題は各論にある。例えば“2談話”見直し発言だ。従軍慰安婦で日本軍の関与を認めた官房長官・河野洋平談話と植民地支配をわびた首相・村山富市談話の見直し表明が、首相になってから通用するかだ。靖国も参拝すると言っている。これらを首相になって断行すれば、日中・日韓関係はそれこそ最悪の状態に陥る。安倍は首相時代に両談話の「継承」を表明、靖国参拝も控えたが、再び総裁選の公約を党の公約として前面に出せば、党内議論を巻き起こし、平地に波乱を生じさせることは確実だ。
また尖閣問題にしても、「船だまりを作る」とか「公務員を常駐させる」と踏み込んでいる。都知事・石原慎太郎を喜ばせているが、これもこれまで以上に日中関係をこじらす。不可能と見たか、石原は早くも公約履行を迫っている。こう見てくると、安倍の主張は一見理路整然としているように見えるが、現実の政治、外交路線として通用するかどうかが疑問となる。むしろ「理路整然と間違う」類いの発言が多い。これが安倍の弱点だろう。当然民主党は安倍の主張を絶好の党勢回復の材料として攻撃するだろう。これまで谷垣は、もっぱら民主党政権への“敵失批判”で党勢を回復してきたが、安倍の露骨な右バネに乗った右傾化志向は“両刃の剣”として自民党に降りかかる可能性が出てくるだろう。中国が対日攻勢を続ければ、総選挙には通用するだろうが、政権に通用するかどうかは疑問だ。恐らく安倍は現実に合わせた軌道修正をせざるを得まい。一連の政局報道では朝日が26日朝刊で4面ながら「決戦での逆転濃厚」とぎりぎりの判断を出した。産経もトップで「安倍氏、決戦で逆転公算」と踏み切った。読売はこの勝負時に見出しに出せずじまいであった。読売は「石原だ、石原だ」と書きまくって恥をかいた。細野豪立候補の誤報もそうだが、近ごろ「政局の読売」が朝日に旗を巻いてしまっている。どうしてしまったのだろうか。
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安倍の「超タカ派」路線は修正を迫られる
杉浦 正章 2012-09-27 06:57
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尖閣問題は、オール日本での対応を
中山 太郎 2012-09-27 16:20
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