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2012-01-28 11:09
(連載)死角を見過ごしたユーロ・エリア(1)
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
ブレトン・ウッズ体制やEMS(欧州通貨制度)のような固定為替相場制の場合には、構成国に、国際収支(経常収支)の大幅な赤字を長く続けてはいけないという国際収支ディシプリンが働く。なぜなら、固定相場制下では自国通貨のパリティ(平価)を外国為替市場に対する介入によって守らなければならないが、大きな赤字が続くと、それに必要な自国の外貨準備が枯渇する恐れがあるからである。しかし、統一通貨になったユーロ・エリアの参加国には、もはや国際収支節度はかからない。なぜなら、これら参加国は、もはや守るべき通貨のパリティも自国通貨もなくなったからである。これが統一通貨の死角であり、欧州危機を拡大させた大きな背景と筆者は考える。
財政収支は、経常収支(国内の貯蓄投資バランス)の一部なので、国際収支節度の喪失は、ユーロ・エリア参加国の財政節度も失われたことを意味する。EMSの時代には、経常収支の赤字に節度が働いていたので、その内訳である参加国の財政収支にも間接的にかなり強い節度がかかっていた。他方、ユーロ・エリア諸国には、安定成長協定(SGP)によって、財政収支に対する縛りはあったが、財政収支を粉飾する国が出た。
今回の欧州ソブリン危機の発端となったギリシャの場合、2009年10月、新たに発足した中道左派・全ギリシャ社会主義運動党(PASOK)のパパンドレウ政権によって新民主主義党(ND)が率いる前政権(中道右派)が財政赤字を過小申告していたことを暴露した。また、ポルトガルの場合にも、2004年、政権交代時に、前政権が財政収支を粉飾していたことが発覚した。いずれも、ユーロ参加の収斂条件を審査する段階から粉飾が始まったものと理解されている。すなわち、ポルトガルの場合は5年以上、ギリシャに至ってはおそらく10年ぐらいの間、粉飾が続けられたものとみられる。ギリシャの場合、10年前に政権についていたのは、PASOKであり、そもそもPASOK政権が粉飾を始めたことになる。
このように、財政収支の粉飾は露見しにくいので、その間、財政収支と経常収支の双方の一層の悪化を招いてしまった。1980年代の中南米諸国を中心とした累積債務問題の頃には、少なくとも南米の1カ国とアジアの1カ国で、外貨準備を粉飾(過大申告)したことが分かっている。しかし、外貨準備の粉飾の場合には、財政赤字の粉飾と異なり、比較的すぐに露見してしまう。帳簿上、まだある程度の外貨準備が残っていると申告していたとしても、現実に外貨の現ナマがなくなれば、介入を諦めるしかないからである。(つづく)
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