今回のARFの意義については、私は、とくに次の2点に注目している。その第1は、これまでのARFは、東アジア地域における政治・安全保障にかかわる重要事項に関する対話・協力を主眼とするものであったが、今回のARFは、その最終議長声明においてARFの目指すビジョンを実施するための「ハノイ行動計画」を採択し、2020年に向け「具体的・実際的行動」を策定・実施するための政策的ガイダンスを盛り込んだことである。しかも、ARFはこの地域における政治・安全保障についての「プライマリー」フォーラムであり、東アジア・太平洋地域におけるこの分野の現存・将来の地域機構(existing and evolving regional architecture)の形成面で、ASEANは「中心的役割」を担うとされたことである。さらに、本年10月より日中韓米露も参加して発足するASEAN+8国防大臣会議(ADMM-PLUS)は、ARFの活動を補足(complement)するものであると、両者の関係を明確に規定した。
その第2は、南シナ海において近年中国の海軍や資源探査の活動が活発化していることに対し、以前よりこれら諸島の一部に領有権を主張し、とくに懸念を強めているベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ等が、今回のARFを地域関係主要国の注意を喚起する好個の機会ととらえ、本問題を主要議題の一つとし、地域関係諸国間の共通関心問題化(地域マルチ化)を図ろうとしたのに対し、中国がこれらは中国と関係各国との2国間問題にすぎないとして、猛烈に反発し、激しい論議が行われたことである。結局、ホスト国ベトナムがとりまとめ、1日遅れて発表された最終議長声明の中では、ASEANと中国が2002年に合意した南シナ海に関する行動規範の遵守の重要性を再確認するとともに、今後南シナ海に関する新たな地域レベルの行動規範(a Regional Code of Conduct in the South China Sea(COC))の締結をも視野において、関係国が信頼醸成に努力すべき旨申し合わせが行われ、ASEAN関係国が実をとった形となった。