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2010-05-25 23:45
人民元バブル極まれり
田村 秀男
ジャーナリスト
中国では史上空前の「マネー洪水」が起きている。一国の消費者や企業が保有するマネーの総量は、現預金の合計額「M2」で表されるが、中国のおカネ、人民元のM2をドル換算してみると、ことし3月末現在で、中国のM2は米国のそれを約1兆ドル(約94兆円)上回った。国内総生産(GDP)では米国の約3分の1の中国が、マネー量では一挙に世界最大の座に飛躍した。おそるべしである。超金融緩和に加え、巨額の投機資金「熱銭」が流入しているためで、不動産や株式バブルの膨張を加速させており、バブルの規模は1980年代後半の日本をしのぐ。バブルが崩壊すれば、日本など世界の景気や金融市場への衝撃は大きい。人民元の早期大幅切り上げなど、バブル抑制策が求められよう。
中国のM2は2007年には前年同期比で一桁台の伸びにとどまっていたが、08年9月の米国発世界金融危機後、一挙に20~30%台まで増加してきた。 危機対策に必死になった米国のドル大量発行に合わせて、中国の当局がドルを買い上げては人民元を刷り、国内の銀行に流し込んできた。国有商業銀行は国内の企業に融資額を一挙に3倍増やす一方で、みずからも株式など証券投資を増やしてきた。その結果、不動産と株式市況は一挙に立ち直った。これをみた中国の国有企業大手などが海外拠点を通じて国内の不動産、株式市場に「熱銭」を投入し、中国のマネー膨張を加速させる。人民元のM2は09年末一挙にドルを抜き去った。
マネーの急激な増加は経済のバブル化の赤信号である。日本では1980年代後半のバブル期、M2の前年比伸び率が二ケタ台になり、90年代初めにバブル崩壊した。当時の日本の銀行による不動産関連融資は年平均で10~11兆円である。現在の中国の銀行の不動産関連融資と同水準で、熱銭の流入額は年間で20数兆円に上った。M2をGDPに比較すると、日本のバブル期はピーク時(1990年)で1.13倍であったのに対し、今の中国は1.9倍にも達する。中国バブルの規模は日本のバブルをはるかにしのぐ。人民元の氾濫は、中国人の旺盛な消費需要を支え、上海などで高品質の日本産食料品、化粧品などのブームを起している。東京の銀座、秋葉原などでも中国人観光客によるショッピングが増えている。
反面で懸念されるのは、世界に及ぼす負の影響だ。すでに上海の株式相場は新興国や米国の株価を先導するケースが目立ってきている。株式と不動産市場は連動するので、不動産相場の急落は株価を暴落させかねない。すると、回復しかけた世界の株式市場が揺れる。世界経済のリスクを回避するためには、中国がマネー膨張を抑え、不動産市場などを冷やすしかない。そこで中国では利上げが検討されているが、「焼け石に水」程度に終わりかねない。金利が上がれば熱銭がもっと入ってくるからだ。結局、決め手は人民元の切り上げと、ドルに対する変動制への移行しかない。人民元が幅広く変動すれば、為替差損を恐れて投機家も慎重にならざるをえない。日本の政府も、民間も、上海万博の喧騒や中国市場ブームに惑わされることなく、しっかりと冷静に考え、人民元バブルがもたらす災厄にも備えておく必要があるはずだ。
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真に警戒すべきは、中国バブルの崩壊
田村 秀男 2010-05-19 23:29
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人民元バブル極まれり
田村 秀男 2010-05-25 23:45
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