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2010-01-15 22:02
(連載)メドベージェフ大統領のロシア批判の意味(2)
袴田 茂樹
青山学院大学教授
プーチン時代のロシア経済を概観し、その特徴と問題点を考察するのが本稿の目的であるが、その前に、2009年秋の時点におけるメドベージェフのこの厳しい批判的発言の意味と背景を考えてみたい。「ロシアよ、前進せよ!」が発表されたとき、内容的にプーチン時代をもかなりストレートに批判しているメドベージェフの言葉を、どのように解釈するかが問題となった。リベラルなメドベージェフが、プーチンの操り人形を脱却して独自色を出そうとしているとの解釈もある。つまり、プーチン時代を含めた現在のロシアの政治、経済、社会状態により批判的で強い危機意識を有している大統領府と、現状をより肯定的に見ている首相府の対立という見解である。
たしかに、大統領府の経済政策のスポークスマンとなっているアルカジー・ドヴォルコビッチ大統領補佐官のロシア経済に関する発言は、首相府(政府)のスポークスマンであるイーゴリ・シュバロフ第一副首相やプーチン人脈の筆頭であるアレクセイ・クドリン副首相兼財務相の発言よりも、現状や今後の見通しに関してはるかに厳しい。大統領がロシア経済に関して、ロシアの現状に危機意識を抱く改革派あるいはリベラル派と見解を共有していることは、大統領の経済諮問機関である現代発展研究所のメンバーを見れば明らかだ。メドベージェフ自身がこの研究所の理事長である。研究所所長のイーゴリ・ユルゲンス(ロシア産業家企業家連盟副会長)は、プーチン時代に筆者と懇談したときも、改革派の立場からロシアの現状やユコス事件を驚くほど率直に批判していた。
メドベージェフが、プーチン人脈に頼らない、あるいはシロビキ(軍、治安関係者)に偏らない新たな指導的人材グループの育成や側近グループの再編に務めてきたのも事実だ。2008年秋に、1000人の人材発掘計画を発表したが、これもその一環である。しかし、このような大統領と首相の見解の相違に注目して、大統領府と首相府の抗争や軋轢を強調する見解に対しては、しばしば分業説が対置される。プーチンとメドベージェフの考えや気質の違いは認めながらも、両者の個人的関係が基本的に良好なことに注目し、また基本的な考えは一致しているとして、むしろ両者は役割を分業しているとの見解である。
たしかにメドベージェフだけでなく、プーチンも資源依存のロシア経済に危機感を抱き、それを一貫して批判しているのは事実だ。彼は、筆者も含めた国外の専門家との懇談会で、「ロシアが資源超大国と呼ばれることを、私は好まない」とはっきり述べた。また、彼は国家管理の経済よりも市場経済が効率的だということも理解している。したがって、プーチンは現実には国家管理を強化してきたとしても、理論上は「国家資本主義」を否定し、市場派の経済専門家を周囲に置いた。つまり、大統領と首相は、考えや気質に違いがあっても、基本的な認識は共有していると言える。ここから、分業説が生まれるわけである。(つづく)
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(連載)メドベージェフ大統領のロシア批判の意味(1)
袴田 茂樹 2010-01-14 21:29
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袴田 茂樹 2010-01-15 22:02
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(連載)メドベージェフ大統領のロシア批判の意味(3)
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