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2009-11-07 08:52
(連載)「東アジア共同体」に共通基盤ありや?(2)
吉田 重信
元駐ネパール大使、元駐上海総領事
他方、今日のような米国や西欧諸国の隆盛は、もとをたどれば、似たような人種を中心に、古代・中世ヨーロッパに形成された、共通の文化、社会的基盤においてもたらされたものである。その中核にはキリスト教があるとされている。従って、「東アジア共同体」構想も、EUの理念がそうであったように「古代・中世的世界」のアジア版復興という側面をもつだろう。中国人の実利的知恵、日本人の学ぶ能力と感性、韓国人の活力などが融合され、それにインド人の哲学的叡智が加われば、一体どういうアジアが出現するのか、欧米の識者たちもきっと注目しているに違いない。このあたりは、英国の歴史家、トインビーが早くも1930年代(つまり日中戦争の前)に言及していたところである。
ところで、わが国新政権による「東アジア共同体」構想への参入は、中国追随となるばかりか、そのペースに巻き込まれ、日本の不利益になるだけだ、との危惧が表明されている。かかる危惧感は、中国に対する日本の対策を論じる際に、しばしば提起されてきたものであるが、そこには中国の「脅威」に対する日本人の被害妄想意識がある。これに対し筆者は、今後日本は、中国に対して消極的、否定的な対応ではなく、わが国がこれまで蓄積してきた、いわば「埋蔵資産」をもっと活用することによって、積極的に対応することが可能であると考える。
その資産とは、わが国が他のアジア諸国に百年以上も先駆けて近代化を進めてきた成果、つまりもろもろの体験、文物、制度である。その中には、科学や技術のほかに、自由な言論活動、活発な市民活動、議会制民主主義の実績、社会福祉制度の充実などが含まれる。これらの資産は、いずれも中国を含めた「東アジア共同体」諸国の共通財産ともなりうるはずで、ここに日本が先導して「東アジア共同体」構想を推進できる手がかりがある。この構想への日本の参入の動きについて、それは中国を牽制しつつ、日本の主導権を狙うものだという見方が、他国にあるが、わが国は、そんな戦術的な思惑ではなく、もっと広い歴史的展望に基づき、この構想に取り組み、推進すべきものであり、現にそうしているはずである。
また、日本がこの構想に傾斜すれば、日米同盟を弱体化する、との批判があるが、それに対する答えとしては、日米同盟の本来の理念を想起すべきである。その理念とは、わが国の安全保障への配慮だけでなく、アジア太平洋地域全体の平和と発展に寄与すべく構想されている。近年顕著な米国の中国接近についても、日本を孤立させる、不利な動きとしてではなく、積極的なコンテキストで捉えるべきである。したがって、「東アジア共同体」構想のような、広い地域協力への構想は、理念的には日米同盟とも矛盾しない。既存の取極めや構想を踏まえつつ、「東アジア共同体」構想をいかに実りあるものにしていくかについては、わが国政府のみならず、国民全体の知恵が問われている。(おわり)
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吉田 重信 2009-11-06 18:23
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吉田 重信 2009-11-07 08:52
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