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2009-03-31 17:38
「人民元通貨圏」形成への第一歩を踏み出した中国
村瀬 哲司
龍谷大学教授
2008年12月、中国国務院常務会議は、貿易の人民元決済を一部解禁すると決定した。すなわち(イ)香港・マカオと上海を含む長江デルタ地帯・広東省の間、(ロ)ASEANと雲南省・広西チワン族自治区の間の貿易取引について、試験的に人民元決済を認めるというものである。これまでも認可された国境貿易(モンゴル、北朝鮮、ミャンマー、ベトナムなど)については人民元決済が行われてきたが、国務院の決定は重要な貿易拠点において本格的試験を行うもので、人民元国際化に向けた第一歩とみなすことができる。
貿易決済を人民元で行うためには、海外の輸出入当事者の取引銀行が人民元口座を持つとともに、決済に必要な人民元の外貨見合いの売買・保有が認められなければならない。従って、従来許可されなかった海外銀行による人民元の銀行口座開設と為替取引(直物・先物)が上海でおこなわれることになる。手始めに中国銀行香港現地法人と香港上海銀行(香港)が、それぞれ上海の中国銀行と交通銀行に人民元口座を開設することが認められたと伝えられる。香港は人民元のオフショア・センターの道を歩み始めた。
今後、東アジアにおける貿易で人民元決済が本格的に普及するには、海外銀行だけでなく、貿易に従事する非居住者の人民元口座(中国国内ないしオフショア)が認められる必要がある。ただし、非居住者が広く人民元を保有するようになると、通貨危機(大量の人民元売り)のリスクが高まることから、中国の通貨当局は、たとえASEANに限定するとはいえ、一般非居住者に対する人民元預金口座の解禁には慎重を期すだろう。2009年3月全国人民代表大会で人民銀行の易綱副総裁は、人民元の国際化について「焦る必要ない」と発言している(3月10日付『日本経済新聞』)。
中国の学界では、東アジアに地域通貨制度を作るべきか否かの議論に関連し、協調論と協調不要論とが聞かれる。協調論は、地域全体の観点にたつ議論に加え、人民元を共通通貨バスケットにペッグし、実効為替レートの安定化を通じて「人民元のアジア化」を唱える意見などである。不要論は、中国は東アジアにおける競争関係で有利であり、「人民元通貨圏」が形成されるだろうから、地域通貨協力に参加する必要はない、あるいは参加は国益を損なうと主張する。特徴的なことは、いずれの立場にせよ、中国経済の発展を背景に将来的に人民元がアジアの中心通貨の一つを占めるだろう、という点では同じということである。
2009年は「人民元通貨圏」形成にむけて第一歩を踏み出した年として記録されるかもしれない。「人民元通貨圏」の範囲・内容がどうなるかは今後の問題であるが、人民元が限定的にせよアジアでの国際化を開始したことは確かである。金融・経済危機後の東アジア経済を展望して、我が国のリーダー達は、域内での通貨体制ならびに円と人民元の位置づけを真剣に議論しなければならない。残された時間は多くはない。
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